中東かわら版

№135 イスラエル:ブネイ・ブラクでパレスチナ人による乱射事件、5人死亡

 2022年3月29日午後8時頃(現地時間)、テルアビブ近郊のブネイ・ブラク市で、男が歩行者、商店の客、警官に対して発砲し、5人を殺害する事件が発生した。男は西岸のジェニーン市近郊に住むパレスチナ人で、警察に現場で射殺された。パレスチナ人の男が射殺した犠牲者5人のうち、2人がユダヤ人、1人はブネイ・ブラク市の警官だったアラブ人、残り2人は外国人労働者とされる。事件後、現場では地元住民が反アラブ人的なスローガンを叫ぶデモを行った。

 事件を受けて、ベネット首相はテロに断固として立ち向かい、治安の回復を実現すると約束した。一方、事件後初めてのコメントで、「イスラエルはアラブのテロリズムの波に直面している」と述べたことが問題視され、後のビデオ演説では「イスラエルは新たなテロリズムの波に直面している」と言いぶりを変えた。また、パレスチナ自治政府のアッバース大統領も事件を非難する声明を出した。イスラエル国内のこうした事件についてアッバース大統領が非難することは稀である。しかし、ハマース、パレスチナ・イスラーム・ジハード運動(PIJ)、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)などは、犯行はイスラエルの占領犯罪に対する自然かつ正当な反応であると評し、事件を称賛した。

 イスラエル国内では、先週からアラブ人またはパレスチナ人による殺害事件が連続して起きている(下記表を参照)。 

3月22日

ベエルシェバ

(南部)

・アラブ人男性が路上でユダヤ人男女4人を刺殺

・犯人はネゲブ砂漠出身。シリアの「イスラーム国」への参加を計画した罪で4年の禁錮刑を受けたが、2019年に釈放

3月27日

ハデラ

(北部)

・アラブ人男性2人が路上で歩行者と警官に発砲し、警官2人死亡

・犯人はウンム・ファハム出身。「イスラーム国」が犯行声明を出した

3月29日

ブネイ・ブラク

(中部)

・パレスチナ人男性が路上で乱射し、5人死亡

・犯人は西岸のジェニーン市近郊出身、ブネイ・ブラクの建設現場で不法就労していた。2015年不法武器所持とテロ組織加入の罪で6カ月間収監

 

 

評価

 今回の事件も、27日のハデラ事件に引き続き、イスラエル社会のユダヤ・アラブ間対立の深刻化を反映した事件と言える。この問題は、ユダヤ人によるアラブ人に対する長年の暗黙的な差別や不信感といった慣行に加えて、イスラエルによるパレスチナ人の占領支配の長期化も関係している。イスラエル国籍のアラブ人は国内における自らの「二等市民」的位置づけを、西岸・ガザ地区のパレスチナ人がイスラエル軍から日常的に受ける占領支配の苦しみに重ね合わせ、自身のアイデンティティを「パレスチナ人」と規定する割合が多いと言われている。このパレスチナ・アイデンティティは、イスラエルでの極右ユダヤ人の台頭によっても強化されていると考えられる。ベネット政権はアラブ人社会の犯罪対策や開発計画を推進する姿勢だが、根本的原因はユダヤ人国家イスラエルの構造・本質にあると言わざるをえない。

 4月2日からはラマダーン月が始まるため、エルサレムでパレスチナ人とユダヤ人の緊張が高まることが予想される。最近の事件に影響されたアラブ人・パレスチナ人が、エルサレム以外でも同様の事件を起こす可能性も含めて、治安の悪化が懸念される。

【参考情報】

<中東かわら版>

・「イスラエル:ハデラでの警官射殺事件に「イスラーム国」が犯行声明」No.130(2022年3月28日)。

(上席研究員 金谷 美紗)

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