中東かわら版

№134 チュニジア:改憲に向けた国民協議の終了

 2022年3月20日、サイード大統領が主導する憲法改正プロセスの一環である国民協議が終了した。この協議は、16歳以上の国民が、政治や経済など6つのテーマ毎に設定された質問事項を選択肢で回答するアンケート形式となっていた。アンケート結果は現時点で公表されていないが、この先、同結果を踏まえた憲法改正案が作成され、7月25日に改憲の是非を問う国民投票が実施される流れである。アンケートの回答総数や年齢別の割合は、以下のとおりである。

 

表 国民協議の回答総数と男女別の内訳

総数

53万4915人(回答率:約8%)

男女別

男性:36万6210人、女性:16万8705人

(出所)オンラインプラットフォーム「e-istichara」

 

図 回答者の年齢別の割合

 

(出所)オンラインプラットフォーム「e-istichara」

 国民協議の終了を受け、サイード大統領は7月の国民投票に向けた作業を進める意向を示す一方、低回答率(約8%)を記録したことから、国内の政治勢力は反発を強めている。チュニジア労働者総同盟(UGTT)は2013年時のように、政党や主要国内団体が参加する形での国民対話の実施を求めている。またナフダ党も、国民協議の取り組みは失敗であったと主張し、昨年7月から続く議会停止措置の解除を訴えた。

 

評価

 今般の国民協議の回答率は、2019年の大統領選挙(第1回投票:約49%、決選投票:約57%)や議会選挙(約42%)と比較して、極めて低い数値となった。この理由として、ナフダ党などの反大統領勢力によるボイコット運動に加え、無党派の国民の多くがサイード大統領の取り組みに賛同していないことが指摘できる。同大統領はこれまで、政党に不信感を抱く国民の支持を取り込むことで、昨年7月の権力奪取を正当化してきたため、国民協議の試みの失敗は、大統領の政治基盤を大きく揺るがす要因となる。

 今回の回答率を踏まえると、7月25日に予定される国民投票で憲法改正案が否決される可能性も考えられる。サイード大統領は大統領主導の政治体制の構築に向けて動いているが、国民の最大の関心事項は、経済状況の改善である。同大統領が具体的な経済再建策を実施できていない中、債務問題は深刻化し、最近の高油価や世界的な食料価格高騰に伴う物価上昇が国民生活を圧迫している。そのため、7月の国民投票では経済悪化に不満を抱く国民が大統領への不支持表明として、反対票を投じると予想される。他方、改憲案が否決された場合でも、議会が停止する限り、大統領を罷免する方法は残っていない点から、サイード大統領が政権運営を継続する可能性もあり得るが、国内勢力の猛反発によって政治的混乱に拍車がかかる恐れがあるだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「憲法改正及び前倒し議会選挙の実施へ」No.94(2021年12月14日)

・「改憲に向けた国民協議の開始」No.105(2022年1月21日)

(研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP