中東かわら版

№133 イスラエル:アラブ諸国外相と多国間会談「ネゲブ・サミット」を開催

 2022年3月27・28日、イスラエル南部のネゲブ砂漠のスデ・ボケルにイスラエル、バハレーン、UAE、モロッコ、エジプトの外相が集まり、地域安全保障を議論する多国間会議「ネゲブ・サミット」が開催された。米国のブリンケン国務長官も同会議に参加した。

 今回の会議の目的は、「地域安全保障枠組を前進させること」(イスラエルのラピード外相)とされた。イスラエル高官によると、今回の会議では、中東地域における弾道ミサイルやドローンの脅威、紅海上の海賊の問題が議題になった。バハレーンのザイヤーニー外相は、フーシー派によるミサイル攻撃、ヒズブッラーの存在、イランの核開発を踏まえるとネゲブ・サミットのような多国間会議は緊急かつ重要であると述べ、参加したアラブ諸国外相の中で唯一イランに言及した。エジプトのシュクリー外相は、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化は良い変化であると評価する一方で、パレスチナ問題の公正な解決に向けて動くべきと述べた。また、モロッコのブリタ外相とUAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相は、今回の会議を機に地域諸国の協力が強化されることを望むと述べた。

 他方、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は、ネゲブ・サミットはイスラエルの入植活動やパレスチナ国家の建設を防ぐ行為を覆い隠す試みであると非難した。なお、ヨルダンは会議への参加を断った。

 ネゲブ・サミットに先立ち、ブリンケン国務長官はエルサレムでベネット首相、ラピード外相、ガンツ国防相、ヘルツォグ大統領と会談し、イラン核合意(JCPOA)再建協議について協議した。ベネット首相は、イランとの合意条件として、米国がイラン革命防衛隊をテロ組織リストから除外する案について懸念を伝えた。

 

評価

 ネゲブ・サミットは、イスラエルとアラブ諸国が一堂に会して地域安全保障を議論する歴史的な場であった。開催の背景には、米国の中東への関与からの撤退、イスラエル・アラブ諸国関係正常化の進展、そしてJCPOA再建協議が大詰めを迎えている現状がある。米国の関与が低下する中、中東諸国は米国なしで自国及び地域の安全を確保する必要性に直面しており、既にそれを念頭に置いた域内関係の変化が進んでいる。今回の会議も地域独自の安全保障努力の一つであり、さらにイスラエル・アラブ諸国の関係正常化の進展と共通の脅威としてのイランが、ネゲブ・サミットの実現をもたらしたといえる。

 したがって、会議の中心的議題はイランの地域的影響力やJCPOA再建協議であったと考えられる。エジプトのシュクリー外相は、中東地域の重要イシューにパレスチナ問題を挙げたが、どの国よりパレスチナ問題に関わってきた国としてパレスチナへの配慮を示した形とみられる。アラブ諸国の外交上の重要課題は自国と地域全体の安全保障であり、パレスチナ問題ではないことが改めて明白になった。

 とはいえ、今次会議参加国は、中東地域の安全保障において米国の一定の関与を求めている。そのため、ブリンケン国務長官が参加できたことは、米国の関与を示すことに成功した意味でイスラエルとアラブ諸国側の努力の成果といえよう。

 会議参加国は、ネゲブ・サミットを継続的に実施できる枠組みにしたい意向である。今次会議を足掛かりに、今後イスラエルとアラブ諸国の安全保障協力が進めば、中東地域はイランの孤立化という方向に進む可能性もある。

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP