中東かわら版

№132 GCC:欧米のロシア包囲網に与しない姿勢を改めて示唆

 2022年3月28日、UAEのマズルーイー・エネルギー・インフラ相は、UAEがOPECプラスの枠組みを通してエネルギー市場の安定化に貢献すること、これにあたりOPECプラスのメンバーであるロシアが代替不可能な存在であることを述べた。同相は10日にも同様の趣旨の説明を国営通信を通じて行っている。

 ロシアのウクライナ侵攻について、クウェイトがロシアをやや強いトーンで批判していることを除けば、GCC諸国は概ね外交・平和的な解決を求めるとの主張を続けている。すなわち、欧米のロシア包囲網からは距離をとり、ロシア・ウクライナ双方と関係を維持する姿勢である。UAEはアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子が1日、サウジはムハンマド皇太子が8日、バハレーンはハマド国王が15日にそれぞれプーチン大統領と電話会談を実施し、一方ではウクライナとも会談を継続している。またカタルは2月22日にタミーム首長がプーチン大統領からの親書を受け取っている。今次のUAEによるOPECプラスへの言及は、こうしたロシアとの関係維持の姿勢を明確に反映しつつ、この意図を説明したものと言える。

 

評価

 GCC諸国がロシア包囲網に与しない背景には、一つに公式発表通り、OPECプラスの存在がある。エネルギー輸出国として国際社会での影響力を維持してきたサウジ・UAE・カタル等にとって、エネルギー市場の安定化という責任を負うことは自国のプレゼンス向上の機会ともなる。

 加えて重要なのは、シリア・イエメンという2つの紛争国でのロシアの存在であろう。ロシアはシリア戦争の介入国として、とりわけアサド政権との関係回復に取り組んでいるUAEにとって今後重要なパートナーとなる。イエメンに関しては、2月28日の国連安保理でアンサールッラー(通称フーシー派)の「テロ組織」指定にロシアが賛同したことは、サウジ・UAEにとって強力なバックアップとなった。またカタルに関して、ロシアとの関係改善を模索する同盟国トルコの存在を考慮すれば、自国とロシアが一定の友好関係にあることは重要な意味を持つ。こうした域内の利害関係を念頭に置けば、国際社会が謳う人道主義に容易に寄りかかることができないGCC各国の事情も浮かび上がってこよう。

 

【参考】

『中東かわら版』2021年度No.120「UAE:ウクライナ情勢を受けてアブダビ皇太子がプーチン大統領と電話会談」(2022年3月2日)

『中東かわら版』2021年度No.131「イエメン:サウジ石油施設への攻撃とイエメン戦争の進捗」(2022年3月29日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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