中東かわら版

№131 イエメン:サウジ石油施設への攻撃とイエメン戦争の進捗

 2022年3月25日、アンサールッラー(通称フーシー派)が発射したドローンの一部がサウジアラビア西部ジェッダにあるサウジアラムコの給油所に着弾し、大規模な火災が発生した。3月に入り、アンサールッラーは10日にリヤドのサウジアラムコ施設、南東部ジャーザーン州と南部アブハー州に向けてドローンを、19日にはジェッダのサウジアラムコ施設とジャーザーン州に向けて弾道ミサイルを発射する等、サウジへの攻撃を積極的に行っている。またイエメン国内では、主な前線をマアリブ・シャブワ両県(いずれも同派が拠点とするサナアの西部)からハッジャ県(サナアの北東部)へと移し、UAEが送り込んだ(とアンサールッラーが主張する)傭兵の掃討を進めており、全体的に武装活動が活発化の様相を呈している。

 

評価

 1月のアンサールッラーによるUAE攻撃以降、サウジ・UAEは国際社会に対して同派の包囲網の呼びかけを強め、この甲斐あって2月28日には国連安保理でアンサールッラーの「テロ組織」指定が採択され、同派及び支援勢力への武器輸出と幹部の海外渡航が禁止された。また3月14日にはEUが同派を「ブラックリスト」に加え、同派関係者の資産凍結が決定された。

 国連とEUは、かつて米国(トランプ政権)がアンサールッラーを「テロ組織」指定した際、「イエメン国内の人道支援を妨げる」と非難し、これに追随しなかった。この後、米国(バイデン政権)は同派の「テロ組織」指定を解除したが、今回は国連・EUが先行してサウジ・UAEを後援した形となった。しかしこれは、「テロ組織」指定が「イエメン国内の人道支援を妨げる」懸念が払しょくされたことを意味せず、むしろ国内の食糧・燃料不足は一層の深刻化が伝えられている。さらに上述の通り、アンサールッラーの態度は硬化の一途にあり、「イエメンの封鎖と虐殺に関与した勢力はどこにいようと報復を受ける」(同派・マシャート政治局長)との発言に見られるように、徹底抗戦の構えを崩さない。

 ただし、戦果・被害はいずれも宣伝効果を見込んだものとして理解すべきであろう。タイミングを考えれば、イラン核合意交渉が「大詰め」と言われていた2~3月、サウジがアンサールッラーの活動を引き合いに出して国際社会にイランの脅威を改めて訴え、交渉の行方に影響を及ぼしたいとの思惑もあったと思われる。一方のアンサールッラーは、3月26日にサウジ主導有志連合軍のイエメン軍事介入が8年目に突入することから、国内向けに戦意高揚の材料を欲していた状況である。こうした双方の事情に基づき、アンサールッラーには戦果を、サウジには被害を大々的に報じるための環境があったことを考慮すれば、とん挫したようにも思えるサウジの和平交渉提案も含め、イエメン戦争の展開には今後も複数のオプションが考えられよう。

(研究員 高尾 賢一郎)

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