中東かわら版

№130 イスラエル:ハデラでの警官射殺事件に「イスラーム国」が犯行声明

 2022年3月27日、北部のハデラ市で、機関銃と拳銃を持った男2人が歩行者と警官に対して発砲し、国境警察隊の警官2人が死亡、警官・民間人数人が負傷した。警察発表によると、容疑者2人は北部ウンム・ファハム出身のアラブ人で、銃弾1100発、拳銃3丁、ナイフ6本を所持していた。

 事件直後、「イスラーム国パレスチナ」名義の犯行声明がソーシャル・メディア「テレグラム」に流れた。犯行声明には、「パレスチナ北部のハデラ市で、特攻要員アイマン・イグバーリーヤとハーリド・イグバーリーヤが不信仰ユダヤ警察部隊と機関銃で交戦し、ユダヤ警官2人を殺害、約10人を負傷させた。これは、不信仰者のユダヤ人に(アッラーの)約束は遅かれ早かれお前たちに到達することを知らしめるためである」と記された。なお、イスラエル国内メディアは、容疑者2人をアイマン・イグバーリーヤとイブラーヒーム・イグバーリーヤと報じている。

 同時に、「イスラーム国」の通信社「アアマーク通信」が事件の短報と男2人の動画を配信した。短報の内容は犯行声明や既存の報道内容とほぼ同じである。動画では、男2人が「イスラーム国」の新カリフ、アブー・ハサン・ハーシミー・クラシーに忠誠を誓っているが、2人が実際の容疑者なのかどうかは現時点で不明である。

 

評価

 イスラエル本土で「イスラーム国」関連の事件が起きることは稀である。過去に「イスラーム国パレスチナ」の名義で犯行声明が出されたのは、2017年6月に起きたエルサレムでの事件のみである(ナイフと銃でユダヤ人を襲い、イスラエル警官1人を殺害)。なお、容疑者の一人は、過去に「イスラーム国」への参加を試みたことで逮捕された経歴があるため、彼らが「イスラーム国」支持者であることは事実であろう。

 容疑者は、イスラエル北部のアラブ人地域、ウンム・ファハムに住むアラブ人であることから、今回の犯行はイスラエル国内のアラブ人社会の問題を反映した事件であると考えられる。イスラエルのアラブ人は、占領地のパレスチナ人と出自を同じくすることから、多数派のユダヤ人から暗黙的な差別を受けてきた。アラブ人地域は開発計画から取り残され、組織犯罪が蔓延るようになり、最近ではイスラエル社会におけるユダヤ・アラブの亀裂が政治問題化するようになっている。このようなアラブ人社会の問題を背景に、容疑者はユダヤ人への憎悪と「イスラーム国」への支持を強め、犯行に至ったと考えられる。そうであれば、今後もイスラーム過激派思想を支持するアラブ人による同様の事件が起きる可能性も否定できない。

 なお、同日夕方、ネゲブ砂漠でイスラエルとアラブ諸国の外相会談が行われたが、ハデラの事件は上述の社会問題が背景にあると予想されるため、外相会談と直接的な関係はないと思われる。

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP