中東かわら版

№129 アフガニスタン:アフガン暦新年を迎えるも、ターリバーンが女子教育再開を撤回

 2022年3月23日、ターリバーン教育省は、ナウルーズ(アフガン暦の新年。3月21日)以降に再開すると公約していた女子教育について、この決定を再開初日に撤回した。これを受けて、一度は登校した女子生徒が、学校から帰宅を告げられ、泣き崩れながら帰る様子が現地メディアやソーシャル・メディア上で報じられた。

 ターリバーンのムジャーヒド情報文化副大臣代行兼報道官は、本年1月15日、ナウルーズ以降には全ての女子生徒の登校が許可されるとの方針を示していた。3月22日時点においてもなお、ターリバーン教育省は、翌23日から同方針を適用する立場を維持していた。対象学年は、これまで登校が制限されていたクラス7~12(注:日本の中学1年生から高校3年生に相当)である。

 しかしながら、同日、ターリバーン教育省のラヤーン報道官は、同指導部の指示に基づき、クラス6を越える女子学校の再開は更なる通知があるまで停止されると発表した。同日付「バフタール通信」(ターリバーン系)によると、同報道官は、「シャリーア(イスラーム法)とアフガニスタンの文化と伝統に基づき包括的な計画を策定後、女子学校に通知する」と発言した。

 同23日、国連アフガニスタン支援ミッションのライオンズ代表は、「クラス6を越える女子生徒の登校が当局によって撤回されたという動揺を与えるニュースを聴いた。もし真実であるとすれば、一体何が理由であるというのだろうか?」とツイートし落胆の意を示した。

評価

 ナウルーズを迎え、ターリバーンが、公約通りに男女平等な教育へのアクセスを保障するか否かが注目された。こうした中、ターリバーンは、女子教育再開を撤回した。女子の教育へのアクセスを制限することは、基本的人権に照らして決して許されることではない。国際社会のターリバーンに対する評価は、より厳しいものとなることが予想される。

 ターリバーン指導部が撤回を決断した公の理由は、前述の通り、女子教育の再開が「シャリーアとアフガニスタンの伝統と文化」に即していないと判断されたことにある。但し、それが具体的に何を意味するのか、は必ずしも明瞭ではない。ターリバーンはかねてより、男女は別教室で学ばなければならない、男女が席を同じくしないよう授業の時間帯をずらす必要がある、女性は外出する際にヒジャーブを被らなければならない、といった見解を示してきた。ターリバーン指導部がこれらを問題視した可能性はあるものの、事前準備の時間も充分あったことから、再開初日に撤回という判断にはやはり不審な点が残る。

 ターリバーン側の理屈がどのようなものであれ、民族、性別、思想・信条にかかわらず、全てのアフガニスタン人が尊厳のある生活を送ることが保障される必要がある。今後、国際社会が取るべきアプローチとしては、ターリバーンに対して女子教育の再開のための環境整備を地道に働きかけることが考えられる。特に、ターリバーンが示した撤回理由を考慮すると、イスラーム諸国と、アフガニスタン国内の宗教指導者を通じての働きかけが有効となり得る。イスラーム協力機構(OIC)やトルコなどは、男女平等な教育へのアクセスはムスリムの権利だとしてこれを認めるべきとの意見を累次表明してきた(下記【参考情報】を参照)。

 国際社会としては、ターリバーンが抱える不満の根源を特定し、有効なチャンネルを通じて、ターリバーンに言動を一致させるよう促し続け、早期に男女平等な教育へのアクセスを実現することが重要だ。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:OIC臨時外相級会合で人道信託基金の設立が発表」No.96(2021年12月21日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「ターリバーン統治の今後の方向性~行動原理と諸課題に着目して~」R21-12

(研究員 青木 健太)

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