中東かわら版

№128 シリア・UAE:アサド大統領のUAE訪問

 2022年3月18日、アサド大統領はUAEを訪問し、アブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子、ドバイのムハンマド・ビン・ラーシド首長(UAE副大統領)と会談した。アサド大統領が他のアラブの国を訪問するのは、2011年11月にアラブ連盟の加盟国資格を凍結されて以来、初めてとなる。シリアは「アラブの春」の反政府抗議運動を暴力的に弾圧したことで、アラブ連盟の加盟国資格を凍結されたが、最近はアラブ諸国との関係改善が進みつつある。2021年11月には、UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相がシリアを訪問し、アサド大統領と会談した。

 今次会談において、アサド大統領は、UAEは国際問題について均衡のとれた外交を展開していると評価した。また、世界は不安定な状態に向かいつつあると見解を示した上で、だからこそ中東地域を守るためには国家主権の原則を守り、人々の利益を保護すべきであると述べた。他方、ムハンマド皇太子は、シリアはアラブの安全の柱であると述べ、地域安全保障におけるシリアの重要性を示唆した。シリア紛争については、シリアの領土的一体性を支持するとし、同国に駐留する外国部隊の撤退を支持した。会談では、相互利益に基づく二国間協力の促進や地域の安全と安定に貢献する方法、また国際情勢や地域情勢についての意見交換が行われた。

 

評価

 現在、シリアのアラブ連盟復帰を特に支持するのは、UAE、エジプト、ヨルダンである。その理由には、シリアの安定は、テロの拡大防止、国境地域の治安改善、シリア難民帰還の促進を可能にし、周辺地域の安定化に貢献できること、またシリアとの様々な分野での協力を促進し、シリアをアラブ世界に引き込むことで、イランの影響力の拡大を防ぐ狙いがある。UAEやバハレーンがイスラエルと関係正常化を進めたことも、イランの脅威に対処する目的があった。米国は、市民への残虐行為をはたらいたアサド政権と関係改善を進める諸外国を批判し、今次訪問にも「深い懸念」を表明したが、アラブ諸国は対イラン戦略や治安の安定化という国益からシリアへの接近を図っているのである。

 国内での戦闘がほぼ終結した現在、アサド政権のプライオリティは復興である。復興の推進においてUAEなどアラブ諸国からの投資の呼び込みは極めて重要になるが、欧米諸国がシリアに科した制裁が障壁になっている。今後、アラブ諸国が欧米諸国に制裁緩和を要求するかどうか、そうでなければどのような形でシリアとの関係を強化するか、注目される。

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「UAE・シリア:シリア内戦以降、初となるハイレベル会談」2021年度No.80(2021年11月10日)

(上席研究員 金谷 美紗)

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