№127 リビア:ロシア産ガスの代替調達先としてのリビア
2022年3月14日、イタリアのディマイオ外相はロシア産ガスへの依存状況(全体の45%)を解消するため、2カ月以内にロシアからのガス輸入量を半減させるとともに、アルジェリア及びリビアからの輸入を増加させると述べた。一方のリビア側も、リビア国営石油会社(NOC)のサナアッラー会長はウクライナ危機を受け、ヨーロッパのガス需要に対応するべく、国内のガス生産量を引き上げる方針を示している。
イタリアの脱ロシア政策は石油輸入面でも進んでおり、9日、イタリア炭化水素公社「エニ」は、ロシアからの原油及び石油製品の新規購入契約を見送ることを発表した。ここから、リビアはガスと同様、ヨーロッパへの石油供給国としての役割も期待されていることがわかる。
評価
リビアはイタリアと地理的に近く、両国間にはグリーンストリーム・ガスパイプラインがすでに敷設されているため、ロシア産ガス輸入の削減を図るイタリアにとって、リビアは理想的な代替調達先である。
しかし、紛争下にあるリビアからエネルギーを安定的に確保するのは容易でない。まず、ガス生産地域は主に、トルコ・カタル・イタリアが支援してきた西部勢力の支配エリアに位置するが、ガス生産量はカッザーフィー政権崩壊前の2010年の水準まで回復しておらず、輸出量も低迷している(図)。この背景として、紛争の影響による生産妨害活動に加え、深刻化する電力不足問題を理由に、発電用ガス需要が高まっている事情がある。この先、ガス火力発電所の増設が予定されるなど、輸出分に割り当てるほど生産量に余力はないと考えられる。
図 リビアのガス生産量及び輸出量の推移
(出所)米国エネルギー情報局(EIA)のデータをもとに筆者作成。
次に、石油の生産地域は東部と南西部に集中しており、石油施設の大部分は現在、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)や、彼らと連携する石油施設警備隊(PFG)の管理下に置かれている。産油量は紛争の影響を大きく受けており、2020年にはハフタルが敵対するトリポリ政府に圧力をかけるため、石油輸出の妨害措置を紛争の政治的カードに利用した経緯がある。リビア情勢が「1国2政府」化により緊迫する現状下、LNAがトリポリ拠点の国民統一政府(GNU)の退陣を迫る手段として、再び輸出妨害措置に踏み切る可能性が高まっている。さらに、LNAに協力するロシアの民間軍事会社「ワグネル」も南西部シャララ油田の石油施設に駐留しているとされ、同社単独でも同油田の封鎖が可能であるなど、今後、リビアにおけるロシアの軍事的プレゼンスが欧州諸国を揺さぶる存在になり得るだろう。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「アルジェリア:ウクライナ危機を受け、欧州向けガス輸出の増加方針」No.117(2022年3月1日)
・「リビア:東部の議会が新政府を承認、再び「1国2政府」へ」No.123(2022年3月8日)
(研究員 高橋 雅英)
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