中東かわら版

№126 トルコ:ロシア・ウクライナ・トルコ外相の3カ国協議の実施

 2022年3月10日、トルコ南部のアンタルヤでロシア、ウクライナ、トルコの外相が会し、ウクライナ戦争に関する協議を実施した。

 同会談は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻を止めるための糸口を探ることを目的に、トルコの仲介により、1時間以上にわたって行われた。

 会談終了後、各外相は記者会見で要旨以下の通り語った。

 

【ラブロフ・ロシア外相】

  • 今回の会談では停戦交渉を目指しておらず、ロシアはベラルーシでの既存の形式の枠組み内でウクライナとの交渉を継続する
  • ウクライナに武器を供与しないよう西側諸国に警告する。供与された武器には使用上の規制がなくロシアへの脅威となる
  • ウクライナに武器を送る者(国)、または傭兵を奨励する者(国)は、その行動に責任を負うことになる
  • 3月9日にロシア軍がマリウポリの小児病院を爆撃したことに関して、同病院には患者はおらず、西側メディアが事実を捻じ曲げて報じている。ロシアは同病院が、ナチズムと関係があるウクライナの民兵組織「アゾフ大隊」によって使用されているという証拠を国連に提出した
  • ゼレンスキー大統領が今回の会談に同意したのは、純粋に問題に対処するためではなく、「見せびらかす」ためである
  • プーチン大統領はゼレンスキー大統領との会談を拒否しているわけではないが、(そこに至るまでには)より多くの準備作業が必要である
  • 西側諸国がロシアからの安全保障提案を拒否しなければ、ロシアはウクライナで「軍事作戦」を開始しなかった
  • 西側がウクライナに求めているのは、常にロシアに対抗するために働くことである
  • ロシアは石油や天然ガスを武器として使ったことはない。現在の「エネルギー危機」は、ロシアの天然ガス使用を禁止することによって引き起こされた
  • 核戦争の可能性は信じていないし、信じたくもない

 

【クレーバ・ウクライナ外相】

  • ロシアは現時点において停戦を確立する立場にはなく、ウクライナに降伏を要求している
  • ウクライナは戦争終結のため、バランスの採れた外交的解決策を模索する用意はあるが、降伏はしない
  • ラブロフ外相には停戦問題を議論する権限がなかったため、停戦に向けた進展はなかった
  • 自分は「解決策を模索し、決断することを任された外相」として今次会談に臨んだが、ロシア側は交渉ではなく、「話を聞くために来た」と発言した
  • ラブロフ外相とは人道的状況の解決に向けた努力を続けることで合意し、今後実質的な議論と解決策を求める見込みがあれば、今回と同様の形式で再び会談する用意はある
  • 本会談でのラブロフ外相の主なメッセージは、「ウクライナが(ロシア側の)要求を呑むまでロシアは侵略を続ける」というものであった
  • ウクライナはNATO加盟国となり、「NATO憲章が提供する安全保障を享受する」という自国の方針を再確認したが、すぐに実現するわけではないことを理解している
  • NATOは、戦争を止め、ウクライナ市民をロシアの空爆から守るために一丸となって行動する準備ができていない

 

【チャウシュオール・トルコ外相】

  • 今回の会議ではトルコの国家的立場を留保しつつ、ファシリテーター(促進役)を担った
  • ロシアとウクライナは、「保障国」を含む多くの話題について話し合っており、包括的平和条約の締結も机上にある
  • 今回の会合は「簡単な環境」の下で行われたものではなく、奇跡を期待すべきではないが、このような協議を開催する必要があった
  • トルコは、会談の中でウクライナの人道的回廊をいかなる障害もなく開放しておくべきと強調した
  • ロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談の可能性について議論された

 

評価

 今回の3カ国外相会談は、3月11日~13日に開催される「アンタルヤ外交フォーラム」に先立って行われた。ウクライナでの一時停戦を含め、戦争終結へ向けた何らかの糸口が掴めるか否か、に注目が集まったが、目立った成果は得られなかった。だが、2月24日のロシアの軍事侵攻開始以降、戦争当事国の主要閣僚が、「初めて第三国で直接会談を実施」した、という点は評価できるだろう。チャウシュオール外相の発言にもあるように、先ずは「対話の場を作る」ことが重要であり、今後も継続していくことが肝要と思われる。

 他方、ラブロフ外相の発言を見る限り、ロシアは強気な姿勢を崩していない。ウクライナ側は正確な数字を公表していないが、既に多数の民間人が犠牲になっているとされ、今後さらに戦況が悪化する恐れもあることから、早期停戦が望まれる。

 トルコの報道機関は、本外相会談実施にあたり、ロシア、ウクライナ双方からトルコの同席が求められたと報じている。これは、トルコがロシア、ウクライナと良好な関係を築いてきたことの証左であると同時に、どちらにも偏らない微妙な舵取りを求められているという事でもある。チャウシュオール外相が終了後の記者会見で、「トルコの国家的立場を留保しつつ仲介役を担った」との発言も、トルコの立場を示してのことだと想像できる。

 エルドアン大統領、チャウシュオール外相ともに、今後もあらゆる外交努力を継続することを明言している一方、トルコ政府内では、ウクライナにとって今後のプロセスは難しいという意見も支配的で、ウクライナが東西に分割される懸念が強まっている

 ウクライナ戦争は未だ非常に困難な状況にあるが、「人道的状況の解決に向けた努力の継続で合意」を得られたことに限れば、小さいながらも一つの成果と言えよう。

 

(研究員 金子 真夕)

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