中東かわら版

№125 トルコ:イスラエル大統領の14年ぶりトルコ公式訪問

 2022年3月9日、イスラエルのヘルツォグ大統領はトルコを公式訪問し、エルドアン大統領と会談した。訪問に先立ち、イスラエルの空港で記者会見したヘルツォグ大統領は、「トルコとの良好な関係は、イスラエルと中東全体にとって重要であるが、我々は全てに同意するわけではない。両国の関係は長年にわたり困難な時期があった」と語った。

 アンカラで行われた首脳会談では、地域情勢、国際問題、特にウクライナ情勢と東地中海の状況について意見を交換した。

 エルドアン大統領は終了後の共同記者会見で、ヘルツォグ大統領のトルコ訪問に謝意を表明したうえで要旨以下の通り述べた。

 

【二国間関係】

  • イスラエルとの関係強化は、地域の平和と安定およびトルコ・イスラエルにとって非常に重要である
  • ヘルツォグ大統領に対し、中東域内の緊張緩和の重要性と、イスラエル・パレスチナの二国家解決という目的を維持することの意義を表明した
  • トルコは、エネルギー安全保障分野で実施されるガス田開発プロジェクトに協力する用意がある。最近の東地中海地域の発展は、エネルギー安全保障の重要性を改めて示している
  • 両国は、観光、科学、先端技術、農業、健康、防衛産業等の分野で協力しており、2021年の二国間貿易額は、前年比36%増加の85億ドルに達している。2022年はこれを100億ドルまで引き上げることを目標とする

 

【中東和平】

  • トルコは、エルサレムの歴史的地位、アクサーモスクの宗教的アイデンティティと神聖さが維持されることを重視している
  • パレスチナ人の社会的・経済的状況の改善が重要である
  • 反ユダヤ主義は人類に対する犯罪である。トルコは反ユダヤ主義、イスラーム嫌悪、外国人嫌悪、人種差別との戦いにおいて断固とした姿勢を維持し続ける

 

 一方のヘルツォグ大統領は、今次トルコ訪問は、両国間の友好関係を発展させるための基礎を築くことが目的である、と述べ、両国は中東域内に影響を与え得る協力が可能であると同時に、そうすべきとの考えを示した。また、今般の首脳会談を受け、4月にトルコのチャウシュオール外相とラピード外相との会談がイスラエルで実施されることにより、二国間対話の継続が可能になると語った。

 ウクライナ情勢に関しては、10日から南部のアンタルヤで開催される外交フォーラムに、戦争当事国のロシア、ウクライナの両外相が参加し、トルコを交えての三者会談が実現することを評価するとともに、トルコの外交努力に賛辞を送った。

 

評価

 今般のヘルツォグ大統領のトルコ訪問は、エルドアン大統領の招待により実現した。イスラエルの国家元首の訪問は2008年以来、約14年ぶりとなる。

 両国の関係は、2010年5月31日に公海上でトルコの人道支援船団がイスラエル海軍に拿捕されて以降、悪化した。さらに、トランプ政権下の2018年5月15日、米国大使館のエルサレム移転を受け、抗議するパレスチナ側のデモ隊にイスラエルの治安部隊が発砲し、58名が死亡、2700人以上が負傷する事件でさらに冷え込んだ。トルコはイスラエルの対応に猛反発し、駐イスラエル大使を本国に召還した。この事件以来、両国の外交関係は約4年間にわたり断絶状態となったが、2021年以降は、関係正常化に向けた協議を継続させてきた。

 トルコは、イスラエルのみならず、UAE、エジプト、バハレーン等、対立してきた域内諸国との関係改善に乗り出しているが、イスラエルとの関係正常化で現在最も重要視しているのは、エネルギー協力である。エルドアン大統領は、ウクライナ・ロシア関係の緊張が高まっていた2022年1月、イスラエル産の天然ガスをヨーロッパへ直接運ぶことを目指した、東地中海ガス・パイプライン・プロジェクト(「東地中海ガスフォーラム(EMGF)」)に関し、トルコ抜きでは実現できないと述べ、今次ヘルツォグ大統領との会談で、主要議題として協議することへの期待を表明していた。

 ロシアのウクライナへの軍事侵攻により、欧州では反ロシアの動きが加速している。これまで依存してきた、ロシア産天然ガスの代替先として、アゼルバイジャンやイスラエルからの調達が検討されている状況下、トルコとイスラエルとの関係改善が進めば、トルコ領海を通過してイスラエル産天然ガスを欧州市場へ輸送することも可能となる。トルコにとっても国内のエネルギー需要が高まりを見せる中、自国向けの天然ガスの安定供給のみならず、域内でのプレゼンスの強化及び、「パイプライン」という欧州への重要なカードを手にすることが出来る。

 前述のとおり、トルコは中東和平問題、特に二国家解決が最善との主張を一貫して繰り返しており、今回の会談でもイスラエル側に釘を刺している。この問題に対する双方の隔たりはあるものの、協力できる分野での関係改善と深化をはかり、エネルギー、経済関係を強化する狙いがトルコ側にはあるとみられる。

 

  

(研究員 金子 真夕)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP