中東かわら版

№124 シリア:ウクライナでの戦闘任務にシリア人をリクルートの情報

 ウクライナでロシア軍側の人的犠牲が増加するにつれ、ロシアがウクライナの戦闘現場にシリア人を送り込むため、シリアで傭兵を募集しているという情報が流れている。これは、3月6日付『Wall Street Journal』が報じたことで様々な外国メディアも報道し、7日には米国防総省もロシアによるシリア人リクルートの情報に言及した。それ以前には、シリアの反体制派メディアや組織、カタル系メディアが報じていた。他方、シリア国営メディアや市民社会組織は、書きぶりは異なるものの、トルコ支配地域のシリア北部で武装勢力がウクライナ側で戦う要員のリクルートを開始したと報じている。以下は各記事の要約である。

  • Deirzzor24(ダイル・ザウル県の地元反体制派メディア)

・2月末記事。ロシアがウクライナでロシア軍側の「護衛」任務に就くシリア人をダイル・ザウルでリクルートしている。6カ月間の契約期間で、給与は200~300ドル(※筆者注:月額と思われる)。

  • Arabi21(カタル系メディア)

・3月1日記事。シリア人ジャーナリストからの聞き取り記事。ロシアがウクライナで戦うシリア人のリクルートを計画しているが、ウクライナの軍事情勢によって計画中止となる可能性もある。

・ロシアがリビアに送り込んだシリア人傭兵と同額の給与(2000ドル。※筆者注:任務期間中に支払われる総額と思われる)が支払われる予定。

  • Syrians for Truth & Justice(シリアの市民社会組織)

・3月4日記事。ダマスカスで傭兵登録したシリア人からの聞き取り。ロシアはシリア治安当局者に対し、市街地戦の経験がある者、ロシア軍の指揮下で戦闘経験がある者、シリア軍第25師団の兵士をウクライナ行き傭兵に登録してほしいと要請した。

・トルコ軍支配下のシリア北部で、一部の武装勢力がロシア軍との戦闘を希望し、ウクライナ行きを希望する戦闘員の募集を自発的に開始したが、トルコ諜報機関はこの動きを承認していない。

  • SANA(シリア国営通信)

・3月5日記事。ロシア軍筋によると、ウクライナとトルコ諜報機関は、シリア北部でテロリストをウクライナ行き傭兵としてリクルートしている。

  • Wall Street Journal

・3月6日記事。米国政府高官4名によると、ここ数日、ロシアはウクライナで戦う要員をシリアでリクルートしている。リクルートされた要員の一部は既にロシアに到着した。

  • 米国防総省ニュース(DOD News)

・3月7日記事。国防総省高官(匿名)によると、ロシアはウクライナでの戦闘に参加させるシリア人をリクルートしている。ロシアはウクライナ国境に集結させた戦闘能力の100%をウクライナに投入済みであり、同国内での戦闘能力を補強するために外国人戦闘員に頼る必要が生じたと思われる。

 

評価

 上記の記事には、ロシアのウクライナ侵攻に対する立場やシリア紛争での立場が反映されており、情報の真偽を精査する必要がある。ロシアによるシリア人リクルートを報じた媒体は、ロシアのウクライナ侵攻を非難する国のメディアやシリアの反体制派メディアであり、トルコによるシリア人リクルートを報じた媒体は、トルコと対立するシリア政府のメディアである。

 しかし、現時点での事実に基づき、上記情報の真偽についてある程度判断することも可能である。ウクライナにおいてロシア軍側に犠牲者が多数出ており、ロシアは地上戦での戦闘能力の増強に迫られていることから、ロシアが自国民以外の外国人を戦闘要員として必要としている可能性はある。また、プーチン大統領と関係の深い実業家が営む民間軍事会社ワグネルは、ロシアが支援するリビア東部にシリア人を傭兵として送り込んだ実績があり、ロシアと紛争と傭兵は無関係ではない。

 次に、トルコがウクライナ側で戦うシリア人傭兵をリクルートしているという情報だが、トルコはロシアとウクライナの戦闘に何ら利害関係はなく、傭兵を送り込む理由がない。シリア人を傭兵として送り込めば欧米諸国からの非難は必至であり、これ以上欧米諸国との関係を悪化させたくないトルコとしてはなおさらシリア人を送る理由はない。そのため、トルコがウクライナを支援するためシリア人を傭兵としてリクルートしているという情報は信憑性が低い。

 以上から、今後も、シリア人リクルートの情報は注意深くフォローする必要がある。仮にシリア人が傭兵としてウクライナに送り込まれた場合、それは送り出し国に「普通の」仕事を提供できる労働市場がない経済状況が存在することを意味し、ウクライナでは命を落とす可能性が最も高い戦闘の最前線にシリア人が配置される可能性が高いことを意味する。

(上席研究員 金谷 美紗)

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