中東かわら版

№123 リビア:東部の議会が新政府を承認、再び「1国2政府」へ

 2022年3月1日、東部拠点の代表議会(HOR)でバーシャーガー新内閣の信任投票が実施され、賛成多数で可決された。ニュースサイト「リビア・ヘラルド」によると、同政府は41人(首相・副首相3人・閣僚29人・副大臣8人)で構成され、「国民安定政府(Government of National Stability; GNS)」の名称で活動を開始した。これにより、西部拠点のダバイバ首相率いる国民統一政府(GNU)と、バーシャーガー率いるGNSが並存し、リビア情勢は再び「1国2政府」状態に陥った。

 今後の流れとして、新政府GNSとHORは14カ月以内に独自の大統領選挙と議会選挙を実施する方針を示している。その一方、既存政府GNUはGNSの正統性を認めず、権限移譲も行わない構えであり、次期政府の選出に係る大統領選挙の実施に向けて、政権運営を継続する予定である。

評価

 リビア政治の「1国2政府」化は2014年7月の紛争発生以来、たびたび見られてきた(図)。2014年夏に議会が2つに分裂し、制憲議会(GNC)とHORが独自の政府を設置したことで、政府も東西に分裂した。この分裂状況は2015年12月の国民合意政府(GNA)誕生以降も続き、2021年3月の統一政府GNUの発足を受け、ようやく解消された。だが、わずか1年で「1国2政府」の状態に戻り、2020年10月のジュネーブ停戦合意に基づく国連主導の紛争解決プロセスは破綻を迎えた。

 

                                    図 リビア紛争における「1国2政府」の流れ

 

(出所)筆者作成。

 

 今後の注目点は、GNUの政権継続に対してGNSの支持勢力が対応策を講じるか、である。GNSの支持勢力には、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)に加え、バーシャーガー首相の出身地であるミスラータの一部民兵も含まれるなど、強力な軍事勢力がGNSを支えている。特に、バーシャーガー首相支持の民兵は、東部拠点のLNAと異なり、元々中部の停戦ラインよりも西側で活動しているため、トリポリへの軍事作戦が可能である。この点を踏まえると、GNSが武力を用いてGNUの政権転覆を企図する可能性も否定できない。加えて、石油施設を管理下に置くLNAがGNUに圧力をかけるため、2020年に実施したような、石油輸出の妨害措置に着手する恐れもある。リビア紛争の介入国であるトルコやロシア、フランスなどがウクライナ情勢の対応に注力し、国際社会のリビア情勢への関心が薄れる中、ハフタルとバーシャーガーがトリポリでの政権運営の実現に向けて、実力行使に踏み切る可能性がある点は留意すべきである。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:東部拠点の議会が次期首相を任命」No.113(2022年2月16日)

(研究員 高橋 雅英)

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