中東かわら版

№122 イラン:ロシアのウクライナ侵攻を受けてウィーン協議が複雑化

 2022年3月5日にロシアのラブロフ外相が行った発言が、波紋を呼んでいる。同発言は、ラブロフ外相がキルギスのカザクバエフ外相との共同記者会見時、記者からの質問に対してなされたものである。

 同外相は、「最近になり、ロシアの国益に関わる問題が持ち上がった」と述べ、イラン核合意(JCPOA)の再建は「(ロシアの)イランとの貿易・経済・投資関係、並びに、軍事・技術協力の実施に関わる障壁を取り除くものだったはずである・・・(中略)・・・しかし、欧米諸国による攻撃的な経済制裁の雪崩が、我々にある考えを想起させている」と発言した。その上で、同外相は、「我々は、明確な答えを受け取りたい。これらの制裁が、如何なる形であれ、JCPOAで規定される貿易・経済・投資の領域に悪影響を与えない保証が必要だ。我々は、米国側に対し、ロシアのイランとの貿易、投資、軍事・技術協力がフルスケールで行えるよう、少なくとも国務長官レベルでの保証を、書面で提供するよう求めた」と発言した。

 これに対し、イランのハティーブザーデ外務報道官は7日、ラブロフ外相のコメントに関して、ロシア側に外交チャンネルを通じて正式に説明するよう求めている、と発言した。

評価

 ウィーン協議が大詰めを迎えつつある中、ラブロフ外相がJCPOAを、欧米諸国からロシアに対する制裁の解除と関連づける見解を示したことが、交渉を複雑化している。ロシア側の発言の意図としては、制裁を強める欧米諸国に対する不満を表明することにあったと見られる。2月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、欧米諸国は、金融・貿易の制限をはじめとする厳しい制裁をロシアに科している。これらは、ロシア経済を苦境に追いやるものであることから、いわばJCPOAを制裁解除に向けた交渉材料にした形だ。

 一方のイランにとってみると、自国の経済状況を好転させ得るウィーン協議の最終段階で、新たなトラブルを抱え込んだ状況にある。同協議は、2月中旬には最終局面に入りつつあった(詳細は『中東かわら版』No.114参照)。バーゲリー外務事務次官兼首席交渉官も、政策決定者の最終判断を仰ぐため、7日にウィーンからテヘランに戻っている。こうした中、EUのモラ事務次長は8日、専門家会合は終わっており、必要なのは数日以内に「政治的決断」を下すことだけだとツイートした。したがって、核開発プログラム、及び、制裁解除などの各論については、概ね議論が終了しているものと見られる。

 現在、イランのブレイクアウトタイム(核兵器1個分の核燃料の製造にかかる期間)はかなり短くなっており、米国としても交渉をいつまでも先延ばしできる状況にはない。イランとしては、5日に国際原子力機関と継続的な査察受け入れで合意したことが示す通り、過度なJCPOA履行違反を自制しつつ、ウィーン協議の妥結に結び付けたいところだろう。ウクライナを巡りロシアと欧米諸国が対立する緊迫した状況下、イランの核問題を巡って呉越が同舟できるかが焦点になっている。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ウクライナ問題への反応」No.114(2022年2月24日)

(研究員 青木 健太)

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