中東かわら版

№118 アフガニスタン:敵対勢力の鎮圧に向け、ターリバーンが掃討作戦を実行

 2022年2月25日、ターリバーンは首都カーブルとその近隣諸州において、大規模な掃討作戦を開始した。同作戦は、ターリバーンの治安機関3省庁(国防省、内務省、及び、情報局)による合同作戦で、モズルーム国防副大臣代行が指揮を執った。

 同日付のムジャーヒド報道官名義の声明によると、作戦の目的は、ターリバーン治安機関が以前から発見・監視していた強盗、誘拐犯、邪悪分子(注:具体的に何を指すのかについて、同声明からは不明)、及び、その他の犯罪者の逮捕・消滅である。また、同声明は、この作戦によって民間人の身体や居宅に危害を加えることはないと付け加えた。

 27日、ムジャーヒド報道官は開始2日間の成果を概要以下の通り発表した。

 

  • 大量の武器弾薬を押収した。内訳:カラシニコフ自動小銃133挺;クリンコフ1挺;カラコフ1挺;M4カービン3挺;拳銃181挺;手榴弾110個;ミサイル44発;ミサイル砲弾85発;PK機関銃7挺;Dshk重機関銃2挺;狙撃銃2挺;弾倉82個;地雷36個;弾薬13トン;完成弾薬6万497個;ドローン搭載カメラ3機;ピックアップトラック4台;自動車44台;防弾車13台;防弾ランドクルーザー3台;小型無線機64台;衛星デジタルラジオ12台;双眼鏡65個;通信妨害装置42個。
  • 犯罪者を逮捕した。内訳:誘拐犯9名;ダーイシュ(注:「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)を指す)戦闘員6名;強盗35名。
  • 誘拐被害者を解放した。内訳:医師2名;12歳の少女1名;13歳の少女1名。

 

 これに対して、3月1日付『トロ・ニュース』(独立系)は、ターリバーン戦闘員が、カーブル州の他、中央部パルワーン州、カーピーサー州、及び、北東部バグラーン州の住宅を一軒一軒回っており、犯罪とは無縁である民間人の居宅を捜索し、住民に恐怖を与えていると報じた。

評価

 ターリバーンが実権を掌握した後、旧政権の国軍兵士や警察官に対して報復を図り、女性の権利保障を求める抗議デモ隊やメディア関係者の活動を暴力的に制限する様子が報じられてきた。多くの場合、これらは事前に調整された動きというよりも、単発的なものであった。今回、ターリバーンが、治安機関3省庁挙げての大規模な合同掃討作戦に乗り出した要因として、以下が考えられる。

 第一に、現在のターリバーンにとっての潜在的な脅威である、国民抵抗戦線(NRF)からの抵抗を未然に防ぐ狙いが想定される。NRFは、1990年代に反ターリバーン勢力が結集した北部同盟の故アフマド・シャー・マスード司令官の息子、アフマド・マスード(タジク人)率いる抵抗勢力である。同勢力には、サーレフ元第一副大統領(タジク人)も合流し、2021年9月上旬まで、天然の要塞パンジシール渓谷に留まり、事前に搬送した兵器・弾薬を用いて必死の抵抗を見せた。同年9月6日にターリバーンが制圧を宣言してからは、同勢力の抵抗活動は低迷傾向を辿り、地下に潜伏している。NRFは、ターリバーン統治を女性や少数民族を迫害するものだと厳しく非難し、2022年1月頃からターリバーンと散発的に交戦している。一方、イランの仲介により、ターリバーンとNRFとの交渉も報じられている(『中東かわら版』No.101参照)。権力基盤固めを目指すターリバーンにとり、NRFは目下最大の政敵であり、硬軟使い分けながら対応を試みている。

 第二に、ISKPの活動を抑え込む意図があると見られる。近年、ISKPは、カーブル国際空港付近での自爆攻撃(2021年8月26日)、北東部クンドゥーズ州のシーア派モスクに対する自爆攻撃(10月8日)、南部カンダハール州のシーア派モスクに対する自爆攻撃(10月15日)など、立て続けに大規模な治安事案を引き起こした。ターリバーンとISKPは、指導部レベルで対立関係にある。国民向けに治安の回復をアピールしたいターリバーンにとって、ISKPを抑え込むことが急務である。

 加えて、国土の大半が山岳地帯であるアフガニスタンでは、例年、春季に戦闘が活発化する傾向がある。こういった同国固有の事情も踏まえ、ターリバーンが今、軍事作戦を行う決断を下した可能性はある。

 今後の展開次第では、NRFを背後から支援する諸外国が出現するシナリオも考えられる。ターリバーン側の主張がどうであれ、国民の多くが尊厳ある生活を送ることができていないのは事実である。多民族国家であるにもかかわらず、タジク人、ウズベク人、ハザーラ人などの政治参画も実現していない。民主主義諸国が、中露の防波堤となることを期待し、反ターリバーン勢力にヒト・モノ・カネを提供すれば、アフガニスタンが再び代理戦争の舞台となる危険性はある。このため、NRFやISKPをはじめ、反ターリバーン勢力の動向を把握することが、今後のアフガニスタン政治・軍事情勢を理解する上で重要だ。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:印パがそれぞれ国際会合を開催」2021年度No.81(2021年11月12日)

・「アフガニスタン:ターリバーンと国民抵抗戦線との会合をイランが仲介」2021年度No.101(2022年1月11日)

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「ターリバーン統治の今後の方向性~行動原理と諸課題に着目して~」R21-12

(研究員 青木 健太)

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