中東かわら版

№117 アルジェリア:ウクライナ危機を受け、欧州向けガス輸出の増加方針

 2022年2月27日、炭化水素公社「Sonatrach」のハッカール総裁は、欧州諸国がウクライナ危機に伴いロシアからのガス輸入を減少させる場合、アルジェリアが対応策として、欧州向けガス輸出を増加させる準備があることを明かした。アルジェリアはスペイン及びイタリアと直結するガスパイプラインを有し、2020年のEUのガス輸入額ではロシア(約44%)とノルウェー(約20%)に次いで、第3位(約12%)のシェアを占めた(出所:Eurostat)。

 輸出増加の方法について、ハッカール総裁は、アルジェリア・イタリア間の「トランスメッド・ガスパイプライン」の年間輸送量を現在の220億立法メートルから320億立法メートルまで拡大できると説明した。またアッタール元エネルギー相は、アルジェリアの液化天然ガス(LNG)施設の稼働率は50~60%であるため、今後、LNGによる輸出増も可能であると述べた。

 欧州諸国がロシアからのガス輸入回避に向けて動く状況下、28日、ロシア産ガスへの依存度(約45%)が高いイタリアのディマイオ外相はアルジェリアを訪問し、ウクライナ情勢や欧州エネルギー情勢についてタブーン大統領やラマームラ外相と協議した。

 

評価

 ウクライナ危機に伴い、ドイツ・ロシア間のガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働が停止するなど、ロシア産ガスに依存する欧州各国にとって代替調達先の確保が急務となっている。この点、アルジェリアは欧州と地理的に近く、ガスパイプラインも敷設済みである点から、ガス供給国としての役割が期待されている。アメリカ政府もアルジェリアからの欧州向け輸出を支援しており、2月9日にはアルジェリアで活動する仏企業「トタルエナジーズ」や伊炭化水素公社「エニ」などと欧州への追加輸出について協議していた。

 アルジェリアにとっての利点は、ガス輸出の増加が体制基盤を支える資源収入の拡大につながることだ。アルジェリアは過去30年、主要輸出国イタリアのガス市場でシェアを失ってきたことから、ロシアの代替供給は市場シェアを回復させる機会として捉えている。

 他方、アルジェリアはロシアと友好関係にあるため、エネルギー確保に苦悩する欧州諸国への協力がアルジェリア・ロシア関係の悪化につながる可能性も考えられる。アルジェリア軍将校の多くは旧ソ連で軍事研修を受けており、アルジェリアは今日、アフリカ最大のロシア製武器購入国であるなど、両国は軍事面での結びつきが強い。また、アルジェリアが西サハラ情勢の緊迫化によりモロッコとの対決姿勢を強める状況下、国連安保理の西サハラ問題に係る議論でモロッコの立場を支持する決議を阻止するには、常任理事国ロシアとの連携が不可欠である。ただ、アルジェリアが西サハラ問題に固執するあまりロシアの外交的孤立化に賛同しない姿勢を見せれば、欧州向けガスの追加供給に応じたとしても、欧米諸国からの信頼を失う恐れもあるだろう。

(研究員 高橋 雅英)

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