中東かわら版

№114 イラン:ウクライナ問題への反応

 2022年2月21日にロシアがウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の「独立」を承認し、「平和維持」を目的として軍隊の派遣を検討し始めた。同問題(いわゆるウクライナ問題)に関し、22日、イランのハティーブザーデ外務報道官が反応を示した。

 同報道官の発言概要は以下の通りである。

 

  • イランは、全ての側に自制を求める。また、緊張をエスカレートさせる如何なる行動も回避されるべきだと確信している。
  • イランは、全ての側に対し、対話を通じて、かつ、平和的な枠組みにおいて不一致を解消するよう求める。
  • 残念なことに、米国を含むNATOによる干渉と挑発的な措置が、当該地域の環境をより複雑にしている。

評価

 今次反応は、ライーシー大統領がカタルを訪問する中、取り敢えずの反応といったものではある。しかし、ロシアを非難する文言が含まれておらず、ロシアへの配慮を滲ませている点は特筆すべきだ。国連のグテーレス事務総長が22日に「ウクライナの領土保全と主権の侵害」と明言するなど、民主主義諸国は、ウクライナ問題をロシアによる一方的な力による現状変更の試みと受け止めている。

 イランがこうした反応を示した背景には、近年、米国がイランに対して厳しい経済制裁を科したことを受けて、イランが中露との接近を図ってきたことがある(『中東かわら版』No.106参照)。今次反応の最後の一文は、イラン側が欧米に有する不信感を表しているものだ。こうした中、イランにとって、重要な政治的な後ろ盾であるロシアを苛立たせることはできないだろう。

 また、イランとウクライナとの政治・経済関係は強くなく、イランがウクライナ側に寄り添う理由も多くない。イランにとって、ウクライナは輸出入相手国上位10位に入らず、経済的依存度は低い。更に、2020年1月8日の革命防衛隊によるウクライナ機誤射事件を経て、両国間の争点は遺族への補償問題などが中心となっており、前向きな話題も多くない。

 その一方で、ウクライナ問題が、イラン核合意(JCPOA)に向けた交渉の趨勢に悪影響を与える懸念がある。2月17日にバーゲリー外務事務次官兼首席交渉官が「合意にかつてなく近づいている」と認めた。先立つ16日にはフランスのル・ドリアン外相も「(妥結は)数日以内の問題」との見解を表明するなど、交渉は最終段階に入りつつある。現在、経済制裁の全面解除、米国側が再離脱しない旨の保証を与えることなど、米国が譲歩できるか否かが最大の焦点だ。基本的に、JCPOAは、イラン側に一定の条件の下で経済的利益を与える合意であるため、米国内ではJCPOA復帰に対しては根強い反対論が存在する。ロシアは、イランの立場(経済制裁の全面解除)を支持している。したがって、JCPOA復帰という、ロシアを間接的に利し得る選択肢を、現在の緊張下で米国が選ぶかについては全く予断することができない。交渉が最終局面を迎えつつある中、イランは新たな不安要素を抱え込むことになった。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ライーシー大統領のロシア訪問の意味」2021年度No.106(2022年1月25日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「イラン:ウクライナ機誤射と反体制デモ」T19-10(2020年1月号)

(研究員 青木 健太)

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