中東かわら版

№113 リビア:東部拠点の議会が次期首相を任命

 2022年2月10日、東部拠点の代表議会(HOR)は次期首相の選出作業を行い、敵対関係にあった前政府・国民合意政府(GNA)のバーシャーガー元内相を任命した。この背景として、大統領選挙の実施見通しが立たない現状下、HORは現政府・国民統一政府(GNU)の任期満了を主張し、新政府の発足に向けて動いていた。今後、バーシャーガー氏は2月25日までに新政府を組閣し、同政府がHORから信任を受ける予定である。

 バーシャーガー氏は1962年に西部の港湾都市ミスラータで生まれ、ミスラータ航空大学校の卒業後、リビア空軍のパイロットを務め、その後1993年に実業家に転身した。2011年以降、リビア政治で頭角を現し、昨年12月に予定されていた大統領選挙への出馬も表明していた。また、彼はリビアの西部勢力を支援するトルコに加え、東部勢力の支援国フランスやエジプト、紛争で中立の立場であるアメリカとも良好な関係を構築している。

 新首相の任命を受け、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)のミスマーリー報道官は歓迎する意向を示した。その一方、ダバイバGNU首相は次期選挙まで政権運営を継続する点を強調したことから、この先、リビア情勢は再び2人の首相と2つの政府が並立する「1国2政府」状態に陥ると予想される。

 

評価

 今般の首相任命により、リビア紛争で新たな対立軸が生まれつつある。従来、国内勢力が東西に分かれて戦闘を繰り広げ、特にハフタル率いるLNA(東部)とミスラータ民兵(西部)が強力な軍事主体となってきた。しかし、ミスラータ出身のバーシャーガー氏がハフタルと協力し、同郷のダバイバ首相と対立する事態が生じたことから、西部地域で対ハフタル戦線の足並みが崩れ、ミスラータ民兵間での亀裂がより深刻化すると考えられる。

 その一方、リビア紛争の介入国にとって、バーシャーガー氏は新首相として理想的な人物であると言える。リビア・ムスリム同胞団と関係が近いことや、2019年にトルコに軍派遣を要請したGNA内相を務めていた経緯から、彼は親トルコ勢力の有力者と思われてきた。だが、東部勢力とも信頼関係を築きながら、トルコ寄りのイメージを和らげることで、東部勢力の支援国とも対話できる人物となった。トルコとしては現在、リビアで経済的利益を拡大させる方針を優先し、東部勢力との関係改善を進めているため、バーシャーガー氏が仲介役を担うことに期待を寄せていると考えられる。他方、エジプトもバーシャーガー新内閣の発足を足掛かりに、トリポリやミスラータなどの西部地域との結びつきを強め、同地域における経済復興プロジェクトへの参入を加速させる狙いがあるだろう。

  

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:大統領選挙の実施延期」No.98(2021年12月27日)

・「リビア:大統領選挙の見通し立たず」No.107(2022年1月26日)

(研究員 高橋 雅英)

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