中東かわら版

№112 チュニジア:新たな司法機関の設置

 2022年2月2日、サイード大統領は司法官職高等評議会(CSM)の解散を発表し、13日には委員を一新した暫定のCSMを設置した。CSMは裁判官の任命や懲戒などの人事権限を有し、司法の独立性や裁判官の身分を保障する機関である。サイード大統領は解散理由として、CSMの腐敗状況に言及し、CSMの機能不全が汚職及びテロ問題に関する判決の遅れを招いていると批判した。設置に係る大統領令によると、今後、大統領は裁判官任命への拒否権を持ち、違法行為を行った裁判官に対する解任要求や、裁判官のストライキ権への禁止措置も可能となる。

 大統領による一方的なCSM解散は、国内外で批判の的となっている。解散発表後、元CSM委員を中心とする法曹関係者や、大統領の権力奪取に反対しているナフダ党は抗議デモを主導し、2000人以上がチュニス中心部に集結して大統領を批判した。また8日、G7各国の在チュニジア大使館はCSM解散を懸念する共同声明を発出し、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)もCSM解散が権力分立や法の支配を深刻に損なわせるとの声明を発表した。

 

評価

 サイード大統領は2021年7月に権力を奪取して以降、司法への介入を続けている。同年9月に法案の合憲性を調査する暫定憲法調査機構を廃止し、今回は裁判官の人事管理を担うCSMの解散に踏み切った。この先、サイード大統領は裁判官の人事権により深く関与できるため、汚職やテロ関連事件で大統領の意向に沿った判決が出ると予想される。

 司法の独立性が大きく脅かされている中、注目すべき事件の司法調査が動く可能性がある。それは、2013年に起きた左派政党指導者2人(ベルイードとブラーフミー)の暗殺事件である。二人の遺族や支持者はこれまで司法当局が事件の全容を解明しなかったことに不満を募らせ、ナフダ党の秘密組織の関与を強く主張してきた。こうした状況下、遺族らはCSM解散発表後の2月7日にサイード大統領と会談し、再調査を要望するなど、司法を掌握したサイード大統領の力に頼ろうとしている。その一方、サイード大統領にとっても同事件の解明は敵対するナフダ党を弱体化させる機会にもなるため、同大統領はナフダ党の関与を裏付けるような判決に仕向ける可能性も考えられる。

 

【参考情報】

高橋雅英「チュニジアの民主化の行方――サイード大統領の権力奪取とナフダ党の凋落」『中東研究』第543号、2022年1月。

(研究員 高橋 雅英)

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