中東かわら版

№106 イラン:ライーシー大統領のロシア訪問の意味

 2022年1月19日~20日、ライーシー大統領はロシアを公式訪問し、プーチン大統領と会談した。両首脳は、経済・貿易関係の強化や、2001年に締結されたイラン・ロシア二国間協力協定(当初は10年間。その後、2度延長し合計20年間有効)の更新・格上げなどについて協議した。ライーシー大統領は、ロシアとは戦略的関係にありその関係拡大に限度はないと発言し、同国との特別な関係を演出した。

 イラン外務省によると、ライーシー大統領はモスクワ滞在中、ロシア国家院(下院)で演説した他、ロシア経済界要人らとの会合も持った。これらの演説・会合の中で、同大統領は、米国によるイラクやアフガニスタンにおける占領政策を批判した他、イランが近隣外交を重視しており、その中でもロシアは政治・経済面で重要なパートナーであることを強調した。また、同大統領は、ロシア・ムフティー協会代表や、ロシア在住イラン人らとも個別に会談した。

 帰国後、ライーシー大統領は記者団に対して、ロシアとの間で二国間関係に関する根幹的な合意を結ぶことができたと発言した。同大統領は、石油輸出、農産物の輸出、南北輸送回廊の整備、国防、及び、航空産業など幅広い分野に関して協議したと述べた。同行したアブドゥルラヒヤーン外相は、今次訪問によって両国関係が「新しい章」に入ったと評した。

 こうした中、1月22日付「NBCニュース」(米民放)は、ロシア側からイラン側に対し、イラン核合意の再建に向けた「暫定合意」を水面下で提案したと報じた。同記事によれば、イランはウラン濃縮度を60%に抑えなければならない一方で、米国の経済制裁によって外国銀行に凍結されるイラン資産が解除される内容である。つまり、イランは一定の核開発の制限を受ける一方で、制裁解除の恩恵を受けられるということだ。

 この報道に対して、1月22日「タスニーム通信」(イラン保守系)は、ウィーン協議の進捗について知る匿名の人物の発言を引用し、「暫定合意」案が浮上している説について、これまで一度もイラン側のアジェンダに載ったことはないと否定した。

評価

 イランが欧米からの経済制裁で疲弊する状況下、ライーシー政権は近隣諸国との外交・経済関係強化を進める方針を一貫して示してきた。こうした抵抗経済確立に受けたイランの強い意志は、最近のイランと中国との急速な接近によって裏書される。今次訪問にて、画期的な合意が交わされたわけではない。しかし、イランがロシアの後ろ盾を得つつ、もう一つの大国である中国、及び、アジアと中東諸国との外交・経済関係を強化しながら、米国に対抗する構図が鮮明となった。

 とりわけ注目されるのが、核合意再建に向けたウィーン協議を進展させるべく、ロシアが仲介役を担っている点だ。ロシアは「暫定合意」を通じて、米国とイランとの間の信頼関係を醸成し、米国による本格的な制裁解除、及び、イランによる核開発制限への合意に結び付けようとしていると考えられる。

 もっとも、イラン側は「暫定合意」案の存在について否定しており、今後の展開を楽観的に見ることができるわけではない。しかし、1月24日、アブドゥルラヒヤーン外相が「もし米国との対話が求められる段階に達したら、我々はそれを無視しない」と発言するなど、イラン側の態度が軟化する兆候も見られている。平行して、ウィーンにおける関係諸国間の接触も活発化している。

 確かに、米国のマレー・イラン問題担当特使が囚人釈放を交渉の前提条件に挙げるなど、米・イラン間の溝は深いようでもある。しかし、逆に言えば、具体的な争点が浮かぶようになったともいえる。多くの課題を抱えながら、ウィーン協議は新しい局面に入りつつある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:中国との外相会談で25カ年包括的協力協定の始動を確認」2021年度No.103(2022年1月17日)

(研究員 青木 健太)

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