№107 リビア:大統領選挙の見通し立たず
2021年12月24日に予定していた大統領選挙は延期後、実施の見通しが立っていない。1月18日、ウィリアムズ国連リビア担当特別顧問は大統領選挙は2022年6月までに行えるよう支援していくと述べた一方、高等国家選挙委員会(HNEC)は選挙プロセスの再開に6~8カ月の期間が必要であるとの見解を示した。
この先の選挙実施が不透明な状況下、東部拠点の代表議会(HOR)は現政府・国民統一政府(GNU)の政権任期はすでに満了したと主張し、GNU政権存続に対して異議を訴えている。25日にはGNUに代わる新政府の形成に向けた準備を進めるため、次期首相の候補者資格として、推薦人の数(25人のHOR議員)や国籍条項(外国籍不可)などの要件を決定した。
評価
今般、大統領選挙が当面実施されない見通しが強まったが、リビアでは2011年以降、政治的混乱が国の安定化に向けた取り組みを度々頓挫させてきた。2011年のカッザーフィー政権崩壊後の国家建設プロセス、2015年12月署名のリビア政治合意(LPA)に基づく紛争解決プロセス、そして今回の「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」策定の政治行程のいずれも、大統領選挙の実施や新憲法の制定に到達できずに行き詰まりを迎えた。
度重なる政治的混乱の一因として、HORの存在が挙げられる。HORは2014年6月の議会選挙を通じて選出された経緯からリビア国民の民意を反映した唯一の機関に捉えられ、選挙法や予算法にはHORによる議会承認が必要となる。その一方、国の政策方針の決定をHORに付託することで問題が生じている。その理由は、HOR選挙から7年以上が経過し、当時の投票率は約18%にとどまり、今日活動する議員は全200人のうち約120人しかいない点から、現在もリビア国民の意見を代表した機関であると言えないからだ。そして何より、HORはハフタルと連携している紛争の当事者であるため、トリポリ政府の政権運営を妨害する主体となっている。
今後の注目点は、政治的対立が軍事衝突に発展するかである。政治面では政府(GNU)・議会(HOR)間の緊張が高まっているが、軍事面では東西に分かれた軍事組織間で大きな対立は見られない。GNU正規軍のリビア軍と、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)の将校らは中部シルトでの会談を通じて信頼醸成の構築を図っており、リビア紛争での戦闘激化を助長させた諸外国も特筆すべき軍事活動を見せていない。トルコ、ロシアの双方がリビアに軍事的プレゼンスを維持する中、両陣営が敵陣に進攻し勢力範囲を拡大することが難しい状況が生まれた点から、2019年や2020年のような大規模な武力衝突が短期的に発生する可能性は低いと考えられる。
リビアにおける諸外国の動向はリビア以外の地域情勢にも関係しており、例えば、トルコ/カタルとUAE/エジプトの対立軸はムスリム同胞団をめぐる地域情勢から影響を受けている。中東地域における同胞団勢力の凋落状況や、同胞団支援を理由に対立した上記4カ国で関係改善が進んでいる現状下、リビアでもトルコ/カタル(リビア西部支持)とUAE/エジプト(リビア東部支持)の双方が敵対勢力を刺激するような行動を控えていると思われる。特にトルコは、駐リビア・トルコ大使が1月20日に東部を訪問してサーリフHOR議長と会談し、ベンガジ領事館、トルコ・リビア東部間の就航便、東部で中断中のトルコ企業受注の建設プロジェクトなどの再開について協議し、紛争継続より経済的利益の拡大を優先している。2月のエルドアン大統領によるUAE訪問(予定)を契機にトルコ・UAE関係改善が更に進むとなれば、諸外国が支援する形での軍事衝突の可能性はより低くなるだろう。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「リビア:大統領選挙の実施延期」No.98(2021年12月27日)
<中東分析レポート>【会員限定】
・「サウジアラビアの地域外交における諸課題――ウラー宣言とバイデン米政権誕生を経て――」R21-04(2021年6月22日)
・「リビア紛争:外国軍及び外国人傭兵の駐留問題」R21-09(2021年11月22日)
・「UAEの地域外交の動向と展望――イスラエル・トルコ・シリアとの関係を中心に――」R21-10(2021年12月13日)
(研究員 高橋 雅英)
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