中東かわら版

№104 UAE・イエメン:アブダビでの爆破攻撃

 2022年1月17日、アブダビの2カ所にドローンと思わしき飛翔物体が着弾した。1カ所はアブダビ国営石油会社(ADNOC)施設内で、着弾により石油タンクローリー3台が爆発、火災が発生した。これによりADNOC従業員3名(インド人2名、パキスタン人1名)が死亡し、6名が負傷した。もう1カ所はアブダビ国際空港の拡張工事中エリアで、こちらは小規模な火災が発生したにとどまった。

 以上に関して、イエメンの武装組織アンサールッラー(通称フーシー派)側の国民救済政府軍は、「サウジ・米国とともに、UAEがイエメン領土への攻撃を強めてきたことへの報復として、UAE領内で軍事作戦「イエメン・ハリケーン」を実行した」との犯行声明を出した。これによれば、同軍は弾道ミサイル5発、ドローン多数をUAEに向けて発射した。

 また同軍報道官はこの作戦を、イエメンに軍事介入する国々に対する再度の警告であり、(介入を続ければ)更なる攻撃を招くだろうと述べた他、UAEに在住する市民、外国企業等に対して、巻き添えを食らいたくなければ重要な地区や施設から離れるよう勧めた。なお国民救済政府のマシャート最高政治評議会局長(アンサールッラーのアブドゥルマリク・フーシー指導者の代理人)は、「UAEの投資・経済が抱えるリスクを露わにした」として、今回の攻撃を称えた。

 以上に対し、UAE側はアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相が、「処罰を免れ得ない」犯罪行為であり、「(UAEは)報復する権利を有する」と述べた。サウジ等の周辺国はUAEへの支持を表明し、アンサールッラーの攻撃に対する非難声明を出している。なおインフラ面への影響に関して、ADNOCは海外への石油供給に影響はないとし、アブダビのフラッグ・キャリアであるエティハド航空は、一部の便が一時的に待機したもののすぐに通常の運行スケジュールに戻ったことを発表した。

 

評価

 アンサールッラーのイエメン国外への攻撃は、ほとんどがサウジアラビア、しかも南西部のジャーザーン州とナジュラーン州、及び南部のアシール州である。この点、アラビア半島東部、しかもUAEへの攻撃は珍しい。この主な理由は、この数週間ほどでイエメンでのUAEの軍事活動が活発化していることであろう。イエメン戦争におけるUAEの最大の関心はイエメン・エリトリア間の紅海航路の安全性(物流ライン)の確保にあると言われ、この目的に沿ってイエメン南部沖のソコトラ島を拠点に、アンサールッラーと対立する南部移行評議会(STC;ハーディー前大統領擁する暫定政権と統一政府を形成し、国民救済政府と対立)を支持してきた。さらに最近では、サウジ・アンサールッラー間の前線である中部マアリブ県、シャブワ県へのUAEの侵攻が報じられており、アンサールッラーが述べる「報復」はこれを指すと思われる。なおアンサールッラーは1月3日に西部フダイダ港沖でUAE管理の民間輸送船を拿捕した他、12日には、シャブワ県で過去数日間に多数のUAE傭兵を殺害したと発表している(UAE傭兵と「イスラーム国」の掃討作戦として、合計515名以上殺害、850名以上負傷、200名以上生死不明)。

 なおアンサールッラー批判の枕詞になっている、「後ろ盾であるイラン」に関して、現在同国は本事案に関してアンサールッラー側を支持、称賛するような声明は特段出していない。元よりイランはイエメン内戦への関与を公式には認めておらず、アンサールッラーに関しても、革命防衛隊からある程度の資源(人員含む)を提供しつつ、「使えそうなら使う」程度のプロキシーの地位にとどめている。さらに言えば、2021年からイランは断交中のUAE・サウジとの関係回復のための交渉を重ねており、外務省は1月17日に在サウジ大使館の業務再開の準備について言及したばかりである。このためイランとしては、今のタイミングでサウジやUAEとの間で緊張が高まる事態は望ましくない。同様に、UAEやサウジも、本事案を必要以上に対イラン関係の俎上に載せることは避けたいはずだ。

 

参考:イエメン及び周辺国と本レポートで言及した各地点

(研究員 高尾 賢一郎)

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