中東かわら版

№103 イラン:中国との外相会談で25カ年包括的協力協定の始動を確認

 2022年1月14日、アブドゥルラヒヤーン外相は無錫(中国)で王毅外相と会談し、イラン・中国25カ年包括的協力協定の始動を確認した。今次会談において両外相は、二国間の政治・経済・貿易・領事・文化関係、地域情勢、及び、国際情勢など多岐にわたる話題について協議した。イラン外務省発表によれば、アブドゥルラヒヤーン外相は王毅外相に対し、ライーシー大統領から習近平国家主席に宛てられた親書を手交するとともに、中国の「一つの中国原則」を固く支持すると伝えた。一方の王毅外相は、中国はウィーン協議におけるイランの論理的なスタンスを完全に支持することを表明した。アブドゥルラヒヤーン外相は会談後、「本日、25カ年包括的協力協定(2021年3月締結)が履行段階に入った」と公言した。

 近年、イラン・中国関係は、包括的戦略パートナーシップ共同宣言(2016年1月発出)に基づき着実に強化されてきた。昨年、25カ年包括的協力協定の締結以外にも、イランの上海協力機構(SCO)への正式加盟の承認(9月)、バンダル・アッバースにおける中国領事館の開設の閣議承認(12月)など様々な動きが見られた(下表参照)。また、中国は、米国からの経済制裁で苦境に陥るイランに対して、原油の継続的な輸入や、COVID-19ワクチンの供与などを通じて支え続けた。

 

表 イラン・中国関係における最近の主な出来事

日時

出来事

2021

 

 

 

 

2

28

中国製薬会社「シノファーム」のCOVID-19ワクチンの初回輸入が完了した。

3

22

『ウォールストリートジャーナル』は、中国がイランから日量91万8000バレルを上回る原油を輸入していると報じた。

27

ザリーフ外相は、中東歴訪の一環でテヘランを訪れた中国の王毅外相とイラン・中国25カ年包括的諸協力協定に署名した。

9

17

第21回SCO首脳会議において、イランの正式加盟が承認された。

12

29

南部ホルモズガーン州のバンダル・アッバース港に、中国総領事館を開設することが、閣議で承認された。

2022

1

14

アブドゥルラヒヤーン外相は中国で王毅外相と会談し、25カ年包括的協力協定の実施を確認した。

(出所)公開情報を元に筆者作成。

評価

 トランプ前米政権から継続する厳しい経済制裁によって疲弊するイランが、中東地域において影響力を拡大させようとする中国と接近する構図が鮮明になっている。米国の中東地域における軍事的関与の低下や、ライーシー政権のアジア重視外交から見ても、この傾向は当面続くと考えられる。

 イランは、2018年5月のイラン核合意からの米国単独離脱と「最大限の圧力」キャンペーンによって、厳しい金融・原油取引制限に直面した。COVID-19感染拡大による非石油製品部門と観光産業の縮小が加わり、通貨暴落、物価の高騰、失業の増加が顕著に見られている。核合意の再建に向けたウィーン協議が2021年4月から始まったが、イランが要求する制裁解除が実現する見込みは現時点で立っていない。こうした中、イランは国内産品増強と近隣外交重視による抵抗経済確立を目指しており、中国との協力はこれに資する。

 一方の中国は、対米関係を念頭に置いた戦略的観点、及び、天然資源の安定的な輸入をはじめとする経済的利益の双方で、イランを中東地域における重要なパートナーと見做している。原油禁輸措置が講じられる中でも、中国は日量100万バレル近いイラン産原油の輸入を続けた。イランの東隣りに位置するアフガニスタンでも、米軍撤退を経て、中国が影響力を拡大させている。中国にとっての大国間競争の文脈から見ても、戦略的要衝であるイランと関係を強化することは中国を利する。

 今次会談によって、何の分野がいつから開始されるか、は現時点で明らかにされてはいない。しかし、25カ年包括的協力協定には、石油・エネルギー、一帯一路関連インフラ開発、科学技術・教育、技術遠隔通信(情報通信、5G通信、GPS、コンピューター)、人材育成、軍事・安全保障、テロ対策等が含まれており(中東分析レポートNo.R20-10【会員限定】参照)、これらの分野が次第に着手されることになると見られる。

 また、台湾情勢が緊迫化する中、イランが中国共産党の立場を支持したことは、中国にとって国際場裏における支持確保の点で外交的成果である。同様に、ウィーン協議が膠着する状況において、中国がイランの立場を完全支持したことは、イランにとっても貴重な成果だと評価できる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:イラン・中国包括的協力協定が締結」2020年度No.149(2021年3月29日)

・「イラン:バンダル・アッバースにおける中国領事館開設が閣議承認」2021年度No.100(2022年1月7日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン・中国関係の進展と今後の展望」R20-10(2020年10月20日)

(研究員 青木 健太)

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