中東かわら版

№100 イラン:バンダル・アッバースにおける中国領事館開設が閣議承認

 2021年12月29日、閣議は、中国領事館を南部バンダル・アッバース(下図参照)に開設することを承認した。中国は、首都テヘランに大使館を設置しているが、今次承認により領事館が開設されれば、イラン国内では初めての中国領事館となる。他国領事館で、バンダル・アッバースに開設しているのはインドのみである。

 バンダル・アッバースは、ペルシャ湾に面する南部ホルモズガーン州都で、エネルギー輸送における戦略的要衝であるホルムズ海峡の北岸に位置する。同市は、イランの全輸出入貨物の約50%(コンテナ貨物に限れば79%)を取り扱う、イラン最大の港町である。

 

図 バンダル・アッバース周辺地図

 

 (出所)Google Map及び公開情報を元に筆者作成。

評価

 近年、中国はイランとの関係を急速に強化しており、今回の動きは、中国がイランで影響力を拡大させる橋頭保を築く動きだといえる。

 イランは、トランプ米前政権時代に、厳しい軍事・経済的圧力を受けて財政が逼迫した。このため、イランは、2021年3月には中国と25カ年包括的協力協定を締結した上、同年9月には上海協力機構メンバーの正式加盟承認を取り付けるなど、対中国関係強化に向けて舵を切った。中国は、米国によってイラン産原油の禁輸が科せられる中でも、「瀬取り」を通じて原油輸入を続けるなど、イランにとって重要な貿易相手国でもあり続けた。

 一方の中国にとっても、米国の単独行動主義を抑制する上で、イランは重要なパートナーである。特に、中国が、アジアから欧州までを見据えた巨大経済圏構想である一帯一路を推進する上で、中東と南西アジアの結節点に位置するモクラーン海岸(イランとパキスタンに跨る沿岸部)を開発することは、大国間の戦略的競争の観点から中国に有利に働く。先述のイラン・中国25カ年包括的協力協定には、中国が、モクラーン海岸にあるジャースク港、及び、チャーバハール港(上図参照)のインフラ開発に協力する旨が明記されている。また、天然資源の安定的な輸入体制を構築する上でも、イランとの経済関係強化は中国を利する。このように両国関係が近づく中で、今回の動きは、中国をモクラーン海岸開発の主要な担い手にする可能性がある。

 もっとも、米国からの二次制裁が続いているため、米国ビジネスも手掛ける中国企業が対イラン投資を拡大することに伴うリスクは大きく、事態が急速に進展するわけではないだろう。イラン国内でも、アジアに重心を移す外交方針は抑制的に進めるべきとの見方は根強い。

 とはいえ、海外における中国領事館の役割の一つが在留中国人の保護・援助であるとすれば、今後、インフラ開発に伴う中国人ビジネスパーソン・建設労働者の往来の増加が計画されていると見ることもできる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:インド、アフガニスタンとチャーバハール港の開発で合意」2016年度No.27(2016年5月24日)

・「イラン:ジャースク港への石油パイプライン敷設事業の開始」2019年度No.110(2019年10月4日)

・「イラン:イラン・中国包括的協力協定が締結」2020年度No.149(2021年3月29日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン・中国関係の進展と今後の展望」R20-10(2020年10月20日)

(研究員 青木 健太)

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