中東かわら版

№96 アフガニスタン:OIC臨時外相級会合で人道信託基金の設立が発表

 2021年12月19日、イスラーム協力機構(OIC)第17回臨時外相級会合がイスラマバード(パキスタン)で開催され、アフガニスタンにおける人道危機への対応が協議された。

 今次会合は、アフガニスタンが直面する深刻な人道危機について協議するために招集されたもので、OICの諸加盟国(57カ国)に加えて、米国、中国、ロシア、EU、国連なども参加した。ターリバーンからも、モッタキー外相代行が参加した(注:但し、正統性を与えることが懸念されたためか、グループ写真には入らなかった)。ホストしたパキスタンのイムラーン・ハーン首相は、「米国はアフガニスタンにおける政府と国民4000万人を区別しなければならない」と述べ、迅速な行動が取られなければ、アフガニスタンは混乱に陥るだろうと警告した。

 今次会合では、アフガニスタンへの人道支援を届けるため、イスラーム開発銀行(IDB)の管理の下で「人道信託基金」を設立することが決定された。これに伴って、IDBが国連と連携しつつ、2022年第一四半期までに同基金を稼働させることが要請された。OIC加盟国、イスラーム金融機関、その他のドナーは、同基金に資金を提供することが求められた。

 この他、今次会合の決議文書では、アフガニスタンにおける事実上の権力(注:ターリバーンを指す)が、女性を含む全てのアフガニスタン人の参画する包摂的な政権を樹立することが呼びかけられた。また、OICが、イスラームの寛容や穏健さ、教育への平等なアクセス、イスラームにおける女性の権利などの諸問題に関して協議するため、宗教学者とウラマーから成る代表団をアフガニスタンに派遣することなども要請された。

 ターリバーンのモッタキー外相代行は、イスラーム諸国からの要望、懸念、及び、助言に耳を傾ける準備があると発言するとともに、米国と国際機関によって凍結されるアフガニスタン資産の早急な解除を求めた。

評価

 アフガニスタンを巡っては、本年8月15日に国際的に承認されたイスラーム共和国が事実上崩壊した後、ターリバーンが全土を制圧し実効支配を確立した。しかし、ターリバーンを政府承認する国は現時点まで現れておらず、これに伴って国際社会はターリバーンとの向き合い方を決めかねる状態が続いている。欧米諸国は、アフガニスタンにおける民主化支援をしてきたが、そうした外部からの押し付けが現地の実情に即しておらず、国家建設への努力は失敗に終わった。今回、同じイスラーム教の諸国が主導する形で、アフガニスタン国民が直面する人道危機回避に向けた具体的な取り組みが緒に就いたことは、前向きな一歩だと評価できる。

 その一方で、食料、医薬品、シェルターなどの人道支援物資の提供は対症療法に過ぎず、アフガニスタン国民の生活困窮を根本的に解決する方策とは呼べない。国民が安心して生活を送るためには、公務員への給与支払い、農業・民間セクターの活性化、及び、教育、医療、福祉など行政サービスの正常化が不可欠である。しかし、ターリバーンによる権力独占や、女性の権利保障などの人権問題が障壁となり、国際社会はターリバーンとの関与を躊躇している。今次会合で決定された諸事項を土台として、今後、参加各国がこれらを着実に履行してゆけるのか、そしてターリバーンが言葉でなく行動で正統な統治主体足り得ることを示せるか、が大きな課題となるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」2021年度No.68(2021年10月11日)

・「アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求」2021年度No.72(2021年10月21日)

・「アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談」2021年度No.75(2021年10月27日)

・「イラン:アフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合を主催」2021年度No.76(2021年10月29日)

・「アフガニスタン:印パがそれぞれ国際会合を開催」2021年度No.81(2021年11月12日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「アフガニスタンの現状と日本経済・産業への影響」R21-08

(研究員 青木 健太)

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