中東かわら版

№95 イラン・イスラエル:核合意を巡るウィーン協議の進行に伴うにらみ合い

 2021年11月29日に再開したイラン核合意(JCPOA)を巡る第7回ウィーン協議が中断を繰り返し、事実上の膠着状態に陥る中、イラン・イスラエル間でにらみ合いが続いている。

 イランは、ウィーン協議再開に当たって、①制裁解除、②核開発に関する2つのプロポーザルをP4+1側に提出した。しかし、この文書の内容が非常に強硬的なものであるとして、英・仏・独は12月14日と17日、このままでは交渉が決裂しかねないと非難した。

 こうした状況下の12月12~13日、イスラエルのベネット首相がUAEを訪問、アブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子と会談し、イラン包囲網を強化する姿勢を顕在化させた。翌14日、イラン外務省はこれを強く非難するとともに、12月14日付『Tehran Times』に複数の赤い印をつけたイスラエルの地図(注:赤い印は攻撃目標を指すものと推測される)を掲載し示威行動に及んだ。

 また、先立つ12月8日付『ロイター通信』独占記事によると、イスラエルはイランが有する核施設の破壊を念頭に、米軍との合同軍事演習の実施に向けた検討に入った。シリア領内では、12月16日にイスラエルによるものと思われる空爆があり、シリア軍兵士1名が死亡した。シリアでは、イスラエルによる「イランの民兵」への攻撃も常態化している。

評価

 米国がJCPOA復帰を躊躇する背景には、国内事情に加えて、イランによる如何なる核開発も容認できないイスラエルへの配慮がある。したがって、ウィーン協議と平行して、イラン・イスラエル間での代理勢力を通じた小競り合いや水面下での暗闘が激化しているのだろう。

 イランにしてみれば、中東域内の代理勢力を通じて影響力の拡大を図ってきた経緯があり、シリア領内でのイスラエル軍による「イランの民兵」への攻撃は正しく先制攻撃として受け止められる。イラン現体制は、イスラーム共同体を外敵から護ることを最重要課題としており、シオニスト体制をムスリムの尊厳と財産を奪う脅威とみなす。UAEとはペルシャ湾をはさむ隣国であるため、傷つけあわない程度に共存することは可能ではある。しかし、イスラエルとはイデオロギー上相容れない関係にあり、妥協の余地は一切なく、侵害とみなされる行為があれば抵抗することは必至だ。

 一方のイスラエルが攻勢を強める背景には、イランが核開発を拡大させることを実存上の脅威と考えていることがある。過去には、ナタンズ核関連施設の事故(2020年7月、2021年4月)、ファフリーザーデ核科学者の暗殺(2020年11月)など、イスラエルによるものと推測される様々な治安事案が生じてきた(注:イスラエル当局は否定)。最近のイスラエルによるUAEとの接近、シリア領内での軍事行動、及び、米軍との共同軍事行動への準備などは、今後の趨勢によっては不測の事態が起こり得るリスクを示している。

 もっとも、現状は互いにシグナルを送り合っている段階であり、即座に軍事行動が取られるわけではないものと考えられる。

 現在、米国による中東への軍事的関与が減り域内関係が再編される只中にあって、地域国間のパワーバランスに変化の兆候が見られている。こうした事情を反映して、イラン・イスラエル間でのにらみ合いが生じているともいえ、ハイブリッド戦争と呼べる様相を呈している。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:核合意を巡るウィーン協議が再開」2021年度No.78(2021年11月30日)

・「UAE:タフヌーン・ビン・ザーイド国家安全保障局顧問のイラン訪問」2021年度No.92(2021年12月8日)

・「イスラエル・UAE:ベネット首相のUAE訪問」2021年度No.93(2021年12月14日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「UAE の地域外交の動向と展望――イスラエル・トルコ・シリアとの関係を中心に――」R21-10(2021年12月9日)

(研究員 青木 健太)
(上席研究員 金谷 美紗)

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