中東かわら版

№94 チュニジア:憲法改正及び前倒し議会選挙の実施へ

 2021年12月13日、サイード大統領が憲法改正や議会選挙に関する政治行程を発表した。今後、2022年1月1日より国民協議が開始され(~3月20日)、7月25日に改憲に係る国民投票が行われ、そして12月17日に新たな議会選挙が実施される計画である(表1)。国民協議の実施方法についてはオンライン形式となり、また憲法改正の是非を問う国民投票でも電子投票システムが使用される予定である。

 チュニジア情勢では、サイード大統領が今年7月25日に緊急事態時の大統領権限の特別措置(憲法第80条)を適用して執行権を握り、首相の解任や議会停止を発表した。その後、9月22日に2014年憲法の一部条項を停止させ、大統領主導の政治体制の構築に向けて動いていた。今般の政治行程により、7月25日から続く議会の停止措置は来年12月の議会選挙まで継続する。また、現議会の任期は本来2024年までの予定だが、来年の議会選挙の実施は現議会の解散を意味するため、この先、政治的混乱に拍車がかかる見通しである。  

 

   表1 サイード大統領発表の政治行程

日付(2022年)

政治日程

1月1日~3月20日

オンライン形式での国民協議。

6月末まで

改憲作業委員会の発足。

7月25日

憲法改正の是非を問う国民投票。

12月17日

前倒し議会選挙の実施。

(出所)国営通信「TAP」をもとに筆者作成。 

 

評価 

 今般の政治行程での注目点は、議会停止が今後1年以上も継続することである。サイード大統領は、議会での度重なる与野党対立により政党政治に不信感を抱く国民を支持層に取り込もうと試みている。その一方、議会停止の長期化は、各党の反発と民主主義のさらなる後退を招く恐れがある。

 議会はすでに約5カ月にわたり停止し、各議員の免責特権剥奪や給与未払いも続いている。こうした状況を受け、議会第1党のナフダ党のみならず、世俗派政党もサイード大統領に対して議会再開を要求している。今後、前倒し議会選挙に伴い現議会が解散することから、与野党とも現在の議席数を失い、議員の地位も無くなることが確実となった。そのため、各党は大統領の政治行程を頓挫させようと、街頭デモを通じて妨害活動を展開していくだろう。

 また、民意を反映した議会の長期停止は、チュニジア政治の再権威主義化が進んでいる側面である。サイード大統領が2014年憲法の一部条項の停止により、執行権の強化や立法権の掌握を行った結果、三権分立におけるチェック・アンド・バランスの機能不全や、司法の独立性が脅かされる事態が起きている。議会の停止に加え、憲法裁判所が未設置のままである現状下、大統領決定の正当性を監視したり、大統領を罷免したりする手段は残っていない。そして、軍・治安部隊もサイード大統領主導の政権運営を支持している点から、仮に各党主導の街頭デモが活発化しても、サイード大統領は治安部隊を動員して鎮静化を図ると予想される。他方、多くの国民は社会を厳しく監視した革命前の権威主義体制の記憶から、サイード大統領への支持を躊躇する可能性も考えられ、今般の政治行程が大統領による支持獲得につながるかは不透明である。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「大統領が首相解任と議会の一時停止を発表」No.42(2021年7月26日)

 

(研究員 高橋 雅英)

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