中東かわら版

№93 イスラエル・UAE:ベネット首相のUAE訪問

 2021年12月12~13日、ベネット首相はイスラエルの首相として初めてUAEを訪問した。到着時はアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相からの出迎えを受け、13日には、UAEの事実上の最高意思決定者であるアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子と会談した。

 ベネット首相とムハンマド皇太子は二国間の経済協力やイラン問題を協議し、地域の安定・安全・発展に貢献すべく共同行動をとることを確認した。また、ベネット首相はUAEの国営通信「WAM」のインタビューを受け、アブラハム合意は中東地域に新しい外交・経済・文化関係を構築し、同合意によってイスラエル・UAE関係はあらゆる分野で強化されたと述べた。

 イスラエルとUAEはトランプ米大統領(当時)の仲介で2020年8月に関係正常化合意に署名し、今年6月と7月には両国に大使館が開設された。関係正常化合意に署名したネタニヤフ前首相も3月にUAEを訪問する予定だったがキャンセルとなり、今回のベネット首相による訪問が初となった。

 

評価 

 今次訪問では、ベネット首相とムハンマド皇太子が何らかの新しい合意に至ったわけではなく、ベネット首相がUAEを訪問したことそのものに意味がある。イスラエルにとってアブラハム合意の第一の意義は、中東地域に対イラン包囲網を築くことである。これを踏まえると、米国とイランが核合意再建に向けた間接交渉を再開したばかりのこの時期にベネット首相がUAEを訪問したことは、明らかにイランを意識しているといえる。イスラエルとしては、UAEとの友好関係を誇示することで、イランの域内諸国への影響力拡大を抑止する意図があるだろう。イスラエルのUAEとの関係強化に対イラン戦略があることは、10月に米国、イギリス、フランス、ドイツとの空軍合同軍事演習「Blue Flag」(於:ネゲブ砂漠)にUAE空軍司令官を招待したことや、11月に紅海上で米国、UAE、バハレーンと海軍合同軍事演習を実施したことからも読み取れる。

 近年のUAEの地域外交には、地域紛争への介入や紛争仲介の申し出、緊張関係にあったカタル、シリア、トルコとの関係改善に向けた外交など、積極的な行動が目立つ。そのような国との関係強化は、域内で友好国を確保したいイスラエルにとって重要な安全保障戦略となる。ただし、UAEは対イラン政策ではイスラエルと距離を置くと思われるため、イラン問題において両国の協力は限定的になるだろう。

 【参考情報】

<中東分析レポート>【会員限定】

・「UAE の地域外交の動向と展望――イスラエル・トルコ・シリアとの関係を中心に――」R21-10(2021年12月9日)

(上席研究員 金谷 美紗)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP