中東かわら版

№91 UAE・カタル・サウジアラビア:マクロン仏大統領の歴訪

 2021年12月3~4日、フランスのマクロン大統領がUAE、カタル、サウジアラビアを歴訪した。

 UAEでは、アブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子らとドバイ万博会場で会談し、地域・国際情勢等につき協議した。これを経て、両国間で経済、投資、エネルギー、軍事、芸術、宇宙開発、気候変動対策にかかわる13以上のMoUに署名がなされた。この際、フランス製の戦闘機(Rafale)80機、軍用ヘリ(Caracal)12機をUAEが購入する契約が成立した。

 続いて訪れたカタルでは、タミーム首長らと地域情勢について協議した。この際マクロン大統領は、アフガニスタンのターリバーン政権を認めないこと、レバノンのクルダーヒー情報相の辞任によりレバノンとアラブ諸国間の関係改善の見通しが立つだろうといった、フランスの姿勢・見方について伝えた。

 最後に訪問したサウジでは、ムハンマド皇太子らと地域情勢について協議した。レバノン情勢については、同国のミーカーティー首相も電話で交えての三者会談を実施し、サウジ・レバノン関係が改善に向かうことをアピールした。パレスチナ情勢については、サウジの二国家解決案の実現に向けてフランスが協力する旨を伝えた。イラン情勢については、イランの核開発が地域の安定を脅かすとの認識を確認した上で、IAEAによる徹底した監視が必要との認識を共有した。またイエメン情勢については、サウジによる和平案をフランスが支持することを確認した。加えて、サウジ宇宙委員会とフランス国立宇宙研究センターとの間で、平和利用目的の宇宙開発にかかわるMoUの署名がなされた他、観光分野を中心とした経済・投資協力について合意に至った。

 

評価 

 近年、米国の中東へのコミットメントが低下傾向にある中、間隙を縫うようにフランスがGCC諸国へのアプローチを強め、UAEやサウジの側もフランスを武器供給元として頼ることで、双方がウィン・ウィン関係を築いていることはよく知られている。この点、今回のマクロン大統領の歴訪で特に注目されたのがUAEへの軍用機売却の決定だったのは当然だろう。

 さらに今回の歴訪では、レバノンのクルダーヒー情報相の舌禍事件による、レバノンとGCC諸国間の関係悪化がフランスにとって有利に働いた。未曾有の経済危機を迎えているレバノンは、かねてより自国に強い影響力を持っているフランスからの支援を切望している状況だ。これに乗じてフランスは、財政支援と引き換えにクルダーヒー情報相を解任するようレバノン政府に求め、これをUAE・サウジ・カタル訪問の「手土産」とした。

 2021年6月、フランスはサヘル地域の軍事作戦の終結を発表するなど、アフリカからの漸次的な撤退を選び取る姿勢を示した。一方で中東においては、特にGCC諸国に対して、西側同盟国としての存在感をますます強める傾向にある。

 

【参考情報】

『中東かわら版』No.89「レバノン:レバノン・湾岸アラブ諸国の関係悪化とクルダーヒー情報相の辞任」

(研究員 高尾 賢一郎)

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