中東かわら版

№89 レバノン:レバノン・湾岸アラブ諸国の関係悪化とクルダーヒー情報相の辞任

 2021年12月3日、最近のレバノンと湾岸アラブ諸国との関係悪化の原因となっていたジョルジュ・クルダーヒー情報相が辞任した。問題の発端は、クルダーヒー情報相が大臣就任前に収録されたインタビュー映像が10月に放映され、そこで同相が、サウジアラビア主導連合軍によるイエメンのフーシー派に対する攻撃を批判したことだった。その後、サウジアラビア、UAE、バハレーン、クウェイトが相次いで情報相の発言を非難し、駐レバノン大使の召還や各国に駐在するレバノン大使の追放を実施し、レバノンと湾岸アラブ諸国は緊張関係にあった。なお、同相はマロン派で、マラダ潮流が擁立した閣僚である。

 レバノン国内では、外交危機の解消のため、クルダーヒー情報相の辞任を求める声が大きくなっていた。一方、マラダ潮流が属する「3月8日連合」(親シリア派)のヒズブッラーやアマル運動は、サウジアラビアこそが今回の外交危機を作り出した原因であると非難し、大臣就任前の発言で辞任する必要はないと主張した。しかし、アウン大統領やミーカーティー首相も、情報相の辞任以外に湾岸アラブ諸国との危機解消は難しいとの考えで一致し、さらに、フランスからも情報相の辞任を求める圧力があり、3日のクルダーヒー情報相辞任に至った。マクロン大統領は、4日のサウジ訪問時にレバノン支援を議題に上げる条件として、クルダーヒー情報相の辞任が必要であるとミーカーティー首相に伝えていた。

 

評価

 アウン大統領、ミーカーティー首相、マクロン大統領は、未曽有の経済危機にあるレバノンへの支援に向けた協議を開始するため、クルダーヒー情報相の辞任を支持した。しかし、情報相の辞任は「3月8日連合」に対する一方的攻撃でしかなく、例えば「3月8日連合」のリーダーであるヒズブッラーの顔を立てるような策はなかった。今後、ミーカーティー内閣において、情報相辞任を支持した勢力とヒズブッラーなどシーア派勢力との対立が続くことは間違いない。レバノン政府代表団と湾岸アラブ諸国とのレバノン支援協議は進むかもしれないが、支援を巡ってレバノン政界が対立することも考えられる。また、「3月8日連合」と「3月14日連合」(親欧米、反シリア)は、クルダーヒー情報相の問題以外に、ベイルート港爆発事故捜査を担当する判事の解任を巡っても対立しており、政治過程の麻痺が続く可能性が高い。

(上席研究員 金谷 美紗)

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