中東かわら版

№88 トルコ:エルヴァン国庫・財務相の辞任

 2021年12月2日、エルドアン大統領はリュトフィ・エルヴァン国庫・財務相(財務相)の辞任を認め、後任にヌレッディン・ネバティ副財務相を指名すると発表した。エルヴァン氏が財務相のポストをエルドアン大統領の娘婿のアルバイラク氏から引き継いでから、わずか1年余りでの交代となった。

 新たに就任したネバティ氏は、1964年生まれ、南東部シャンルウルファ県出身の57歳。イスタンブル大学政治学部を卒業後、同大学大学院で国際関係学修士号を取得、コジャエリ大学社会学研究所で政治学および行政学の博士号を取得し、様々な大学で教鞭を取った。また、トルコの主要経済団体の一つである、独立工業・企業家連盟(MÜSİAD)本部理事会、イスタンブル商工会議所懲戒委員会委員、公正発展党(AKP)の50人のメンバーからなる第4回中央決定・執行委員会(MKYK)委員、AKPの財務・管理問題の責任者および、同党本部の副議長などを歴任した。2018年9月から副財務相を務めていた他、トルコ列国議会同盟エルサレム・プラットフォームおよび、ウンマ代表財団(UTEV)の会長として、2021年5月に発生した、東エルサレムにおけるイスラエル治安部隊によるパレスチナ人への暴力的対応を非難し、パレスチナに関する共同行動計画策定とイスラーム世界との連帯を呼びかけた。

 2021年12月1日、下落が止まらないトルコリラ相場を支えるため、トルコ中央銀行は為替介入を実施すると発表した。その後、為替レートの不健全な価格形成の抑制を図るとして、ボルサ・イスタンブル・デリバティブ市場(VIOP)で取引を開始したことを明らかにした。中銀による介入は2014年以来、約8年ぶりとなる。約10億ドルを費やして為替介入に動いた結果、12月1日時点でトルコリラは一旦上昇したものの、財務相更迭が報じられて以降は、再び下落に転じている。

  

評価

 エルヴァン財務相が辞任した理由は明らかにされていないものの、経済政策をめぐり、エルドアン大統領との確執があったとみられる。経済の専門家であり、AKP内の重鎮でもあるエルヴァン氏の辞任は、トルコ経済に対する信頼を一層損ねるものになりかねない。

 一方で、財務相交代発表直前に実施された上述の為替介入は、中銀が積極的に動く姿勢を見せることで、リラ安に歯止めをかける狙いがあったと思われる。だが、エルヴァン氏の辞任で、トルコリラは下落し、2日現在において、最安値を更新する可能性も出ている(12月2日現在、最安値は12月1日の8.15円、対ドルは13.7)。

 後任のネバティ氏は、副財務相経験者ではあるものの、経済ではなく政治学の専門家で、経済の牽引役としての手腕は未知数だ。エルドアン大統領の「イエスマン」として、政権が推進する経済政策を採ることが予想されるが、深刻な経済不振にあえぐトルコでは、北部トラブゾンをはじめ、各地で反政府デモが散発している。国民の不満が高まる中での財務相交代劇は、エルドアン大統領の更なる求心力低下を招く恐れがある。

 

【参考情報】

 *関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

 ・「トルコ:アルバイラク財務相の辞任とエルヴァン新財務相任」No.97(2020年11月10日)

  

(研究員 金子 真夕)

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