中東かわら版

№87 イラン:核合意を巡るウィーン協議が再開

 2021年11月29日、イラン核合意(JCPOA)を巡る第7回ウィーン協議が再開した。JCPOA合同委員会の形式で行われ、P4+1(中、露、英、仏、独)とイランが参加した。イランと米国との間では、間接的に協議が行われる。本協議は本年4月6日に始まったが、6月の第6回協議を最後に一旦停止していた。ホストを務めたEUのモラ事務次長は、イラン側が核開発についても協議する意向を示していることを受けて、初回会合を「非常にポジティブ」と評価した。また、ロシアのウルヤノフ・ウィーン常駐代表も、今次ラウンドが「成功裏に始まった」と述べた。一方で、イラン側交渉責任者を務めるバーゲリー外務事務次官は11月28日に「フィナンシャル・タイムズ」紙に論説を寄稿し、イランにとって経済制裁の解除が目標であるとの立場を改めて表明し、JCPOAから離脱したのは米国である、米国がゴールポストを動かさずに、再び合意を離れない保証をすべきだと主張した。また、アブドゥルラヒヤーン外相は29日に「制裁解除のためのウィーン協議」と題するコメントを発表し、如何なる要求もJCPOAの範囲を越えてはならない、苦い経験が繰り返されない保証が必要だ、と強調した。

評価

 イランは米国に対する根深い不信感を有しており、そのことが今後の協議の進展に向けて障害となる。JCPOAから一方的に離脱したのは米国である、とのイラン側の主張は客観的事実に照らして正しい。離脱後、米国はイランに対して厳しい軍事・経済的圧力をかけ、イラン財政は逼迫し、国民生活が困窮した。このため、イランは制裁解除を最優先事項に掲げている。イランにとって、トランプの対イラン政策が苦い思い出であったのならば、最悪のシナリオは、トランプ、あるいは、トランプと同様の対イラン強硬政策を主張する共和党候補が次期米大統領選挙で勝利することだ。「苦い経験」が繰り返されない保証を必須としている背景には、こうしたトランプの「亡霊」への懸念があるとみられる。

 他方、米国側も、米国内における対イラン宥和政策への警戒、域内の重要パートナーであるイスラエルへの配慮、そしてJCPOAがそもそも議会承認を経ていないためにイラン側の要望に応えられない等の争点を抱えている。米国側からの妥協や譲歩も難しい状況である。バイデン政権はJCPOAに復帰する意思を示しているが、その道筋は一筋縄ではいかないだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:核合意を巡るウィーン協議再開に向けた動き」No.78(2021年10月29日)

(研究員 青木 健太)

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