中東かわら版

№86 トルコ・UAE:ムハンマド・ビン・ザーイド・アブダビ皇太子のトルコ公式訪問

 2021年11月24日、エルドアン大統領は、アンカラでアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子と一対一で会談し、二国間関係について協議した。その後、両国の代表団を交えた会談を実施し、エネルギー、環境、金融、貿易分野に関する10の二国間協定の覚書(MoU)に署名した。

 アブダビ開発ホールディング社(ADQ)のムハンマド・スワイディーCEOは、エルドアン大統領とムハンマド・ビン・ザーイド皇太子との会談を受け、ADQの新たな投資としてトルコに100億ドルの資金を割り当てたことを明らかにした。

 また、トルコのチャウシュオール外相は、大統領官邸で行われたMoU署名式で、同首脳会談は「非常に生産的」だったと評し、12月にUAEを訪問すると発表した。

 

評価

 トルコ・UAE関係が改善に向けて大きく動き始めている。両国は、トルコのムスリム同胞団支援とカタルへの接近、リビア情勢などで対立し、関係が断絶状態にあったが、2021年に入り、強硬姿勢を貫いていたトルコは、湾岸アラビア諸国との関係を立て直す姿勢を見せ始めた。

 今般の直接会談の布石は8月にある。8月18日、エルドアン大統領は、UAEのターヌーン・ビン・ザイード国家安全保障顧問をアンカラの大統領官邸に迎え、二国間及び地域問題、またUAEのトルコへの投資等について協議した。これを受け、約2週間後の8月31日には、エルドアン大統領がムハンマド・ビン・ザーイド皇太子と電話会談した。この2回の会談により、両国関係の改善の機運が高まり、今回の直接会談及びトルコへの大規模投資実現に至ったとみられる。同皇太子のトルコ公式訪問は2012年以来で、二国間のトップレベルでの直接会談は、関係悪化以降初めてとなった。トルコ側の報道によれば、今次会談はエルドアン大統領の招待によるものとされる。その背景には、トルコの深刻な経済状況がある。現在、自国通貨のトルコリラは続落し、史上最安値を更新し続けている。新型コロナウイルスの影響で、外国人観光客が激減していたところに、通貨が暴落し、深刻さを増している。経済状況の悪化とともに支持率も減少しているエルドアン政権にとって、UAEからの投資は「のどから手が出るほど欲しい」ものであったことは間違いない。

 一方のUAE側には、「アラブの春」以降の対トルコ関係の悪化がシリア、カタル、リビア等の周辺諸国との関係に影響してきた事態に、終止符を打ちたいとの思惑があると思われる。2021年1月のカタルとの国交回復を皮切りに、シリアのアラブ連盟復帰を提案する等、現在のUAEには「アラブの春」以降に生じた緊張関係を整理する動きが顕著である。リビアに関してはトルコ軍の駐留がUAEにとっては悩ましい問題として残っているが、今次会談によって、こうしたリビア情勢への対応についても、両国間の利害のすり合わせが進む可能性がある。

(研究員 金子 真夕)
(研究員 高尾 賢一郎)

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