中東かわら版

№82 リビア:リビアに関するパリ会合

 2021年11月12日、リビア和平に関するパリ会合が行われた。2020年1月と今年6月のベルリン会合に続き、関係主要国と国際機関が集結し、紛争解決の重要ステップである12月24日の総選挙の準備状況や、外国軍及び外国人傭兵の撤退問題などについて協議した。

 その一方、同会合後の共同声明には、大統領・議会選挙の確実な実施や、全ての外国軍及び外国人傭兵が遅延なく撤退することなど、前回のベルリン会合時と同様の内容が盛り込まれたのみで、紛争解決につながる大きな進展は見られなかった。特に、トルコは今回のパリ会合でも外国軍撤退に関する項目に留保を付け、リビア西部での軍駐留を継続する姿勢である。

 撤退問題が進展しない現状下、主催国フランスのマクロン大統領は、トルコとロシアに対し、リビア及び地域全体の安定を脅かす自国の軍又は傭兵を遅延なく撤退させるべきだと述べ、早期の対応を迫った。また、同大統領は他の外国人傭兵について、ハフタル陣営に属する約300人のチャド人戦闘員が数週間以内にリビアから退去する見通しを示した。

評価

 今般のパリ会合は、リビア国内で政治的緊張が高まる中で行われた。東部拠点の代表議会(HOR)は8月、2021年予算の未承認問題を理由に国民統一政府(GNU)の不信任決議案を可決し、またトリポリ拠点の国家高等評議会(HSC、政府諮問機関)はHOR採択の選挙法案を承認しないなど、政治的混乱が生じている。こうした対立の背景には、12月24日の総選挙に近づくにつれて、東西に分かれた国内勢力が政治的権限や経済利権を維持するために自らに有利な条件をつくろうと動いていることがある。

 また、武力衝突の再燃を招きかねない外国軍の撤退問題も解決の糸口がみつからない。トルコは国連承認の前政府・国民合意政府(GNA)からの派遣要請を根拠に駐留している経緯から、この先も軍撤退に同意する可能性は低い。ロシアについては、リビアにおけるロシア正規軍の存在を認めておらず、戦闘員をリビアに派遣した同国のワグネル社はあくまでも民間軍事会社であるため、ロシア政府・同社間に指揮系統はないと主張する。今後も撤退問題の解決が先送りとなれば、仮に12月24日に総選挙が実現したとしても、紛争当事者の双方が敵陣の外国軍駐留に反発することが予想されるため、その後の情勢が安定する可能性は低いだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビアに関する第2回ベルリン会合」No.35(2021年6月24日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「2021年予算をめぐり政府と議会が対立」T21-05(2021年8月号)

・「議会が内閣不信任決議案を可決、政治的緊張が高まる」T21-06(2021年9月号)

・「外国軍及び外国人傭兵の撤退に関する協議」T21-07(2021年10月号)

(研究員 高橋 雅英)

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