中東かわら版

№81 アフガニスタン:印パがそれぞれ国際会合を開催

 2021年11月10日、インド主催で「アフガニスタンに関する地域安全保障対話」が開かれた。インドのアジット・ドヴァル国家安全保障担当首相顧問(NSA)が同会合のホストを務め、イラン、カザフスタン、キルギス、ロシア、タジキスタン、トルクメニスタン、及び、ウズベキスタンのNSA級が参加した。中国とパキスタンも招待されたが、両国は参加しなかった(ターリバーンからの参加もなかった)。第1回(2018年9月)と第2回(2019年12月)の会合がイランで開催されており、今回が第3回目となる。会合後に発出された「アフガニスタンに関するデリー宣言」によると、参加国は、アフガニスタン社会の全ての民族・政治的派閥が参加した「真に包摂的(truly inclusive)」な政権の樹立を求めた。また、参加国は、アフガニスタンの領土がテロ活動に使用されないことも求めた。

 翌11日、今度はパキスタンで「拡大版トロイカ会合」が開催された。この会合ではパキスタンのクレーシ外相がホストを務め、中国、ロシア、及び、米国のアフガニスタン担当特使が参加した。モッタキー外相代行率いるターリバーン代表団はこれに合わせてパキスタンを訪問し、「拡大版トロイカ会合」参加4カ国代表団と会談した。会合後の共同声明では、参加国はターリバーンに対して、包摂的で代表的な政権の樹立を呼びかけるとともに、ターリバーンとの実務的な関与(practical engagement)を続けることが確認された。11日付パキスタン英字紙『Dawn』によれば、クレーシ外相は同会合で、アフガニスタンとの関与を続けることが重要である、国際社会はアフガニスタンの資産凍結を解除するべきだ、と発言した。

評価

 アフガニスタン政府が崩壊し域内パワーバランスが急変する中で、インドが対アフガニスタン政策を再構築しようとする動きが顕在化している。

 インドは2001年以降、長らくアフガニスタンでの民主的な国家建設に尽力してきた。これまでの民生支援分野での援助総額は30億ドル(約3300億円)を超え、2015年には攻撃型ヘリコプターの供与を行うなど、軍事的関与にも踏み込んでいた。この背景には、インドは、パキスタンが「戦略的縦深」の観点からアフガニスタンにおける影響力を拡大しており、このことがインドの脅威になる、と考えてきたことがあった。実際、過去にはアフガニスタンにおけるインド権益が、度々、何者かによって襲撃を受ける事態が発生している。

 こうした状況下、カーブル陥落(8月15日)はアフガニスタン政府を後押ししていたインドにとっての「敗北」と呼べる出来事であり、現在、インドは対アフガニスタン政策の大幅な修正を迫られているといえる。

 インドが直面する課題は、これまで一貫してアフガニスタン政府を支援してきたため、その敵対勢力であったターリバーンに対する梃子を有していないことである。このため、8月31日にはミタル駐カタル・インド大使がターリバーン・カタル政治事務所幹部と接触を開始するなど、新しい地域秩序に迅速に対応する動きを見せていた。アフガニスタンでの足場を失ったインドとしては、今回のような会合を主催することを通じて、今後もアフガニスタンでの影響力を確保しようとしているのだろう。

 その一方、パキスタンが、ターリバーンに寄り添う姿勢を鮮明にしている点が目に留まる。パキスタンにとっては、自国の西側に親パキスタン勢力があることは国益に適う。今回のターリバーン台頭を受けて、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)がターリバーンの仲介によりパキスタン政府との一時停戦に応じた出来事もあり、パキスタンとしては現下の状況が地域の安定化に資すると訴えたいところだろう。こうした中、パキスタンにとっての懸念は、インドが旧北部同盟のアフマド・マスード指導者(タジク人)率いる国民抵抗戦線(NRF)を支援するか否かであろう。1990年代、反ターリバーン勢力の北部同盟には、インド、イラン、及び、ロシアが支援していた。将来、もしもインドが、北部同盟の系譜を汲むNRFへの支援に動けば、アフガニスタンが再び印パ代理戦争の舞台の様相を呈することになる。このため、インドの対アフガニスタン政策の展開を見極めることは重要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」No.68(2021年10月11日)

・「アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求」No.72(2021年10月21日)

・「アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談」No.75(2021年10月27日)

・「イラン:アフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合を主催」No.76(2021年10月29日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「アフガニスタンの現状と日本経済・産業への影響」R21-08

(研究員 青木 健太)

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