中東かわら版

№80 UAE・シリア:シリア内戦以降、初となるハイレベル会談

 2021年11月9日、UAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相ら一行がシリアを訪問し、アサド大統領他とダマスカスで会談した。シリア内戦が開始し、同国が2011年にアラブ連盟から除名されて以降、UAEのハイレベルがアサド大統領と会談するのは初めてとなる。会談及び出席者の詳細は明らかにされていないが、双方ともに二国間関係の回復を前提とした会談であることを示唆し、UAEは「シリア内戦の終結に向けた努力をする」旨を伝え、アサド大統領はシリアを訪問したUAEの「客観的で適切な姿勢」を称えた。なおアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際相ら一行は、同日の内にシリアを発った。

 

評価

 シリア内戦への対応をめぐって、UAEはアラブ諸国の間でも反体制諸派を支援してきた最右翼と言える国である。しかし、2018年12月にはダマスカスの大使館業務を再開するなど、次第にシリアとの関係改善の兆しが見えており、先月にはアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド皇太子がアサド大統領と電話会談を実施している。周辺諸国を見渡しても、例えば本年9月にエジプトのシュクリー外相とシリアのミクダード外相が国連総会のサイドラインで会談し、10月には、ヨルダンのアブドッラー2世国王がアサド大統領と電話会談を実施するなど、シリアの孤立化を終わらせようとする動きが顕著だ。

 アラブ諸国全体の動きとしては、今年3月、UAEとエジプトを中心に提案されたシリアのアラブ連盟復帰の呼びかけが大きな転機だろう。もとより、アラブ諸国とシリアの間には、もはや対イラン関係のあり方を除けばそこまで大きな利害対立はない。むしろ、シリアの孤立化は同国が過激主義勢力の温床となることを許し、さらにはシリア経済の悪化、同国と関係の深いレバノン経済の悪化を招くため、中長期的に見れば地域にとって治安、経済の面で不利益をもたらす。したがって、シリアとの関係改善の動きは、各国とシリアとの個々の関係によるものというより、シリア内戦解決の地域的取り組みを促進するためといえよう。また、UAEがシリアに接近可能となった背景には、イエメン戦争をめぐりイランとサウジアラビアが協議を実施するなど、イランとアラブ諸国の接触が行われるようになったことがあるだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)
(研究員 高尾 賢一郎)

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