中東かわら版

№79 トルコ:G20ローマ・サミットでバイデン大統領と2度目の首脳会談実施

  エルドアン大統領は、2021年10月30日、31日にローマで行われた、20カ国・地域(G20)首脳会議のサイドで米国のバイデン大統領と会談した。同会談はおよそ70分間、非公開で行われ、両首脳は二国間関係、シリア情勢、アフガニスタンへの人道支援、リビア選挙、東地中海、南コーカサス情勢等について協議した。

 会談終了直後、ホワイトハウスは、バイデン大統領が、トルコと建設的な関係を維持し、協力分野を拡大することで、意見の相違を効果的に処理することを望んでいると強調した。また、トルコが20年近くにわたってNATOのアフガニスタンでの任務に貢献してきたことに謝意を表明するとともに、米国の防衛協力とNATOの同盟国としてのトルコの重要性を再確認する一方で、トルコがロシア製S-400ミサイルシステムを保有していることへの懸念を改めて指摘した。

 エルドアン大統領はG20サミット終了後の記者会見で、トルコが除外されたF-35戦闘機プログラムの代替案として、米国に対しF-16戦闘機40機および既存の80機を近代化させるためのアップデート部品購入を要請していることについて、バイデン政権が前向きに検討しており、今後の交渉は両国の国防相が担うことを明らかにした。

 

評価

 エルドアン大統領は、バイデン大統領との会談に先立ち、今次会談で最も重要なテーマはF-35戦闘機の問題であると発言している。トルコはF-35戦闘機の開発段階からプロジェクトにかかわり、空軍の主要な戦力として同戦闘機100機を購入する予定だった。既にその代金の14億ドルは米国に支払済みで、トルコ人パイロットを米軍に派遣して訓練を実施する等、導入に向けた準備を行ってきた。だが、米国はトルコがロシア製ミサイル防衛システムS-400の導入を進めていることを理由にF-35の引き渡しを拒否し、トルコは開発プロジェクトからも排除された。以降、二国間関係において同問題は最大の懸案事項であると同時に、関係悪化の要因の一つとなっている。

 シリア、北イラクでクルド系武装組織のクルディスタン労働者党(PKK)および兄弟組織の人民防衛隊(YPG)への軍事作戦を遂行するトルコにとって、空軍維持・強化のためには、新たな戦闘機の導入は不可欠である。F-35を諦め、F-16で妥協を図ろうとするトルコ側からの提案は、二国間関係の改善と同時に、防衛機密がロシア側に漏洩することを警戒する米国にとってもメリットがあると考えられる。

 しかし、ロシアとの接近を図るエルドアン大統領に対する米国議会の反発は根強い。10月27日付のロイターによれば、G20に先立つ10月25日、民主党のキャロライン・マロニー、共和党のニコール・マリオタキス下院議員ら11名が、トルコへのF-16供与について「深い懸念を抱いている」として、売却しないよう求める書簡をバイデン大統領とブリンケン国務長官宛に提出した。

 同書簡では、F-16売却計画が進展した場合、議会が一丸となって輸出を阻止することを確信しているが、米国には現時点でトルコに高度な軍事機器を譲渡する余裕はない、としている。

 今般の会談で、バイデン大統領からエルドアン大統領の妥協案に対して前向きな発言が引き出せたことは、トルコにとって一定の成果と言えるが、上述のような米国議会の状況を考えるとF-16の引き渡し実現は容易ではないだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

「トルコ:NATO首脳会議でバイデン米大統領と初の直接会談」No.32(2021年6月17日)

 

(研究員 金子 真夕)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP