中東かわら版

№78 イラン:核合意を巡るウィーン協議再開に向けた動き

 2021年10月27日、イランのバーゲリー外務事務次官(アラーグチー前次官の後任、元国家安全保障最高評議会副書記)はブリュッセルでEUのモラ事務次長と会談し、イラン核合意(JCPOA)の再活性化に向けた米国との間接協議を11月末までに再開すると発表した。10月28日付「プレスTV」(国営放送)のインタビューに応じたバーゲリー次官は、イランは「交渉のための交渉」を求めてはおらず、犯罪的、且つ、不法な経済制裁の解除という結果を達することが何より重要であると強調した。また、同次官は、イランはJCPOAを完全に遵守してきており、履行を停止した米国が先に行動を起こすべきとの立場を改めて示した。

 イラン・米国間の間接協議については、本年4月6日にウィーンでJCPOA合同委員会の枠組みで始められた。そして、イラン国内では2期8年務めたロウハーニー大統領が任期満了を控え、6月18日の大統領選挙に向けた政治的動きが活発化する中、ウィーン協議は一旦停止していた。その後、ライーシー大統領就任(8月5日)、及び、組閣(8月25日)を経て、協議再開に向けた準備が漸次整えられてきた。10月14日、EUのモラ事務次長はテヘランを訪問し、バーゲリー次官との間で準備を加速化することに合意していた。

評価

 イラン・EU間での累次の次官級協議を経て、イラン側の実質的な交渉責任者から今回再開が公表された点から見て、近くウィーン協議が再開する公算は高まったといえる。既にバーゲリー次官はモスクワ入りし、関係国との最終調整に入った。しかし、今後の趨勢については悲観的に見ざるをえない。ハーメネイー最高指導者は本年2月7日、「もし(米国が)イランにJCPOAを遵守させたいのなら、経済制裁を完全に解除しなければならない」との立場を示しており、これをイランによる決定的な政策だと断言している。加えて、昨年12月には、イラン立法府が行政府に対して核開発の推進を法的に義務付ける「戦略的措置法案」が成立しており、保守強硬派の圧力が続くことを踏まえても、イランが対外的に宥和政策を取ることは難しい。

 その一方で、米国のマレー・イラン特使も25日、JCPOA再活性化に向けた準備は「重大な局面」に差し掛かっているとの認識を示し、交渉の妥結以外の「他の選択肢(other options)」(注:本年8月のバイデン大統領発言を踏襲したもの)もあり得ると発言している。この背景には、イスラエルが、JCPOAは不完全な合意であるとの認識の下に、対イラン妨害工作を続けているとみられることがある。ナタンズ核関連施設では2度(2020年7月、2021年4月)にわたって不審な事故が発生しており、昨年11月にはファフリーザーデ核科学者が銃殺される事件が起こるに至っている(注:イスラエルは関与を否定)。

 平行して、イランは制裁の「無効化」実現に向けて、中国との接近も強めている。本年3月に25カ年包括的協力協定を締結した他、9月には上海協力機構への正式加盟が承認された。この意味では、イラン側も「他の選択肢」を有しているといえ、交渉当事者のいずれの立場を踏まえても、合意に至ることは容易ではないだろう。ただ、イラン・米国双方から交渉の過程で何らかの「落としどころ」が提示され、仮に金融・原油取引への制裁が解除される事態となれば、日系企業への影響も少なくない。したがって、今後の動静をキメ細かくフォローすることが肝要である。

 

<中東かわら版>

・「イラン:イラン・米国間の間接協議が始まるも協議は長引く見通し」No.3(2021年4月7日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイラン・米国対立と今後の展開 ~イラン国内諸派間の関係性に着目して~」R20-14(2021年3月22日)

(研究員 青木 健太)

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