中東かわら版

№76 イラン:アフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合を主催

 2021年10月27日、イランがアフガニスタンに関する近隣7カ国外相会合を主催した。今次会合には、主催国であるイランの他、中国、パキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、及び、ロシアの外相が参加した(中露の外相はオンライン参加)。国連のグテーレス事務総長も事前収録のビデオ・メッセージを寄せた。

 同枠組みでの外相会合は、本年9月8日、パキスタンのイニシアチブによって初めて行われており、その際にはアフガニスタンの平和と安定化に向けた隣接6カ国からの支援が確認された。今次会合への、ターリバーンからの参加はなかった。

 会合後に発出された、7カ国外相による共同声明の要旨は以下の通りである。

 

前文要旨

参加国外相らは:

  • アフガニスタンの主権、政治的独立、団結、及び、領土保全を支持し、同国の内政に干渉しないことを確認する。
  • 全ての民族・政治集団が参加する、包摂的(inclusive)、且つ、広範(broad-based)な政治機構が、アフガニスタンの諸問題の唯一の解決策であることを確認する。

 

本文要旨

参加国外相らは:

  • 国民和解、永続的な政治解決、及び、包摂的な政府の成立を達成するための、対話と交渉を通じた対立の解決を支持する。
  • アフガニスタンの関係諸派が、穏当で堅実な内外政策を取り、早期に社会に秩序を取り戻し、政府機関の効率的な運用を実現し、人民に基本的な公共サービスを提供するとともに、少数民族、女性、及び、子どもの基本的権利を保護することを求める。
  • アフガニスタンの責任ある関係諸派が、アフガニスタンの領土を隣国に危害を加えるために使用させないとのコミットメントを確認する。
  • 国際社会とドナー諸国に対し、アフガン難民のホスト国であるイラン、パキスタン、及び、近隣諸国に財政的支援を行うことを求める。
  • 国際社会に対して、アフガニスタンにより多くの緊急人道援助(食料、医薬品、越冬用資材、等)を提供することを求める。
  • アフガニスタン担当特使レベルでの定期的な会合開催、並びに、カーブルにおける大使級での会合開催のメカニズム整備を呼びかける。
  • 国際社会がアフガニスタンと前向きに関与し続けること、そして政治的解決、経済統合、及び、地域連結性の向上に向けた長期的なロードマップを策定することを、改めて求める。

評価

 今次会合の経緯は、イランが近隣諸国外相会合の枠組みを立ち上げたというものではなく、イランはホスト国の役回りが回ってきたため主催したというものである。このため、今次会合開催を以て、イランがターリバーンとの関係強化に舵を切ったと捉えるのは早計であろう。特に、今次会合にターリバーンが参加していない点を見ても、あくまでも近隣諸国間での今後の対応の擦り合わせとコンセンサス作りの一環と見る方が実態に近いといえよう。

 とはいえ、ターリバーン実権掌握後、如何なる国も政府承認を認めない「現状維持」が続く中、イランは今次会合をホストすることでアフガニスタンの安定化に引き続き貢献する意欲を示した。ターリバーンが事実上の権力となる現状の下で、近隣諸国による各種会合・会談の開催はアフガニスタン問題での主導権争いの様相を呈しているといえる。

 今次会合の中で特に注目されるのは、最終共同声明に、「包摂的、且つ、広範な政治機構が、アフガニスタンの諸問題の唯一の解決策である」との文言(前文要旨の下線部)が明記されたことであろう。「包摂性」の重要性は、先般のモスクワ会合をはじめ至るところで強調されてきた。この点、「包摂性」の実現は、ターリバーンが国際的な正統性を得るための半ば「条件」と化している。ターリバーンが、多様な民族・政治的派閥を政権に参画させるか否かが、正統な統治主体としての立場を確立する上で重要な要素となる。

 但し、軍事的優位にあるターリバーンが、旧政権有力者への権力分与において譲歩すべき理由はなく、今後の展開を楽観視することはできない。ターリバーン内で穏当な主張をする「政治部門」に対し、強硬姿勢を貫くよう圧力をかける「軍事部門」の存在も見逃せない(詳しくは『中東分析レポート』No.6【会員限定】参照)。これらに鑑みれば、ターリバーンが少なくとも近い将来に、民族・政治の両面で「包摂性」を有する政権を打ち出す可能性は低く、劇的な状況の改善は見込めない。今後の焦点は、中国やロシアやイランといった国々とターリバーンとの間で、如何に「手打ち」がされるかにあるといえよう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」No.68(2021年10月11日)

・「アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求」No.72(2021年10月21日)

・「アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談」No.75(2021年10月27日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「アフガニスタン国民統合に向けた課題と今後の展望 ――「部族」に着目したターリバーン暫定内閣の分析――」R21-06

(研究員 青木 健太)

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