№75 アフガニスタン:中国の王毅外相がターリバーンのバラーダル副首相代行と会談
2021年10月26日、中国の王毅外相はドーハで、ターリバーンのバラーダル副首相代行と会談した。両氏による会談は、本年7月28日以来である。10月25日付中国外交部の発表によると、今回の王毅外相のカタル訪問は、カタルのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマーン副首相兼外相の招待に応じてなされたもので、主目的はアフガニスタン・ターリバーン暫定政府(原文ママ)の代表団との会談であった。
26日付中国外交部の声明は、今次会談で以下のやり取りが行われたと記している。
王毅外相の発言要旨
- アフガニスタンは、①人道危機、②経済危機、③テロの脅威、④統治の問題、の4つの課題に直面している。国際社会からアフガニスタンの状況への理解と支援が必要である。中国は、アフガニスタン・ターリバーンが寛容(openness)と包摂性(inclusiveness)を示し、全ての民族集団・派閥を平和的な復興に向けて団結させることを希望する。
- アフガニスタン・ターリバーンは、女性と子どもの権利を保護し、近隣諸国への友好的政策をとり、また人民の要望と時代の潮流に適合した近代的な国家を作るべきである。
- 中国は、アフガニスタンの主権、独立、領土保全を常に尊重しており、アフガニスタン人民が将来を自決することを支持する。中国は内政干渉をしたことはなく、アフガニスタン人民に対する友好的な政策を取る。
- 現下の人道的問題に鑑みて、中国は米国に代表される西側諸国に対して制裁を解除することを強く求めるとともに、全関係者がアフガニスタン・ターリバーンと合理的且つ実践的な態度で関与することを求める。中国は、能力の範囲内で人道支援を行う用意がある。
- 国連安保理によって国際テロ組織に指定される「東トルキスタン・イスラーム運動(ETIM)」は中国の国家安全保障と領土保全に脅威を与えているのみならず、アフガニスタンの治安と長期的な安定を阻害している。中国は、アフガニスタン・ターリバーンがETIM及びその他のテロ組織と明確に関係を断ち切り、それらを掃討するための有効策を望んでいる。
バラーダル副首相代行の発言要旨
- 多くの旧政権の公務員やテクノクラートは職場復帰しており、将来的に全ての民族集団に出自を持つ人々が国家統治に参画することになる。
- アフガニスタン・ターリバーンは、女性と子どもの権利保護に向けた努力を強化する所存であり、彼ら・彼女らの教育や就労の権利を制限することはない。現在、医療機関、空港やその他の場所で勤務する女性が職場に戻っており、多くの州で女子学校が再開している。
- 依然として施設と資金が欠如していることから、アフガニスタンは、中国や国際社会が人道危機の回避に向けて支援を増やすことを希望する。
- 中国はアフガニスタンの重要な隣人である。アフガニスタン・ターリバーンは、中国の安全保障上の懸念を理解しており、如何なる個人や組織に対しても、アフガニスタンの領土を中国を脅かすために使用させることはない。
なお、今回の王毅外相のドーハ訪問中、同外相とターリバーンのモッタキー外相代行との個別会談(26日)も行われた。この会談では、経済・貿易関係、人道支援、テロ対策、アフガニスタン人留学生の中国受け入れ等について協議がされた。ターリバーンのバルヒー外務報道官によれば、モッタキー外相代行は「アフガニスタンの領土が中国に対して使用されることはない」と述べた他、オニキス、薬用植物、アーモンド、いちじく、ピスタチオ、及び松の実等のアフガニスタン特産品の中国向け輸出の加速を求めた。モッタキー外相代行から王毅外相に、アフガニスタンの特産品であり中国でも消費される松の実が収められた木箱を贈る様子も見られた。
評価
今回の会談では、中国がアフガニスタンと「外交関係」を維持・拡大させる意思を有することを示したといえる。本年8月15日のターリバーン実権掌握以降、ターリバーンとの間で閣僚級会談を行った国は、現時点で、カタル(9月12日)、トルコ(10月14日)、ウズベキスタン(同16日)、ロシア(同20日)、パキスタン(同21日)、中国(同26日)となった。一方、米、英、独など欧米諸国は特使・大使級での接触に留めている。全体として、米軍撤退を受け、アフガニスタンの対外関係の重心が、欧米から域内諸国に移行したことが明確になっている。
ターリバーンは、軍事的に全土を制圧しているとはいえ、現時点で如何なる国からも政府承認を受けていない。このため、ターリバーンにとり、中国が政治的に後ろ盾となることは正統性獲得を考える上で大きな意味を持っている。同時に、米国、国際通貨基金、世界銀行などがアフガニスタンの資産を凍結している現在、アフガニスタン財政は逼迫し、人道危機が危惧されている。中国が人道支援を行うことに加え、諸外国に対して制裁解除を呼びかけることは、ターリバーンにとってみれば経済的利益も見出せる。
一方の中国にとっても、米軍撤退後に生じた「力の空白」を埋めるべく、戦略的要衝であるアフガニスタンへの影響力確保は大国間競争の文脈で重要である。中国は一帯一路を提唱しており、域内では中央アジアへの影響力拡大、中国・パキスタン経済回廊の建設などに注力している。治安悪化により、アフガニスタンは長らく物流網においては「ブラック・ボックス」となっていたが、政治状況が変化したことで新たな役割を担う可能性が生じている。また、中国にとってETIMをはじめ国際テロ組織への対策は、領土保全に関わる重要事項であり、テロ対策面でもターリバーンとの協力が不可欠である。更に、中国が、100兆円とも試算されるアフガニスタンに埋蔵される天然資源や、トルクメニスタンの天然ガスやイラン産原油の輸送路としての役割に着目して影響力拡大を図っている可能性も指摘できよう。
もっとも、中国は、アフガニスタンとの関係では内政不干渉を一貫して掲げており、民族間の和解など政治的に機微な問題にまで関与する可能性は低い。米軍撤退を受けて、中国とアフガニスタンとの関係は、主に戦略、テロ対策、経済・投資などの観点から、抑制的に、しかし着実に、深まると考えられる。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「アフガニスタン:アフガニスタン政府が崩壊」No.50(2021年8月16日)
・「アフガニスタン:アフガニスタンからの米軍撤退が完了」No.56(2021年8月31日)
・「アフガニスタン:ターリバーンが暫定内閣を発表」No.58(2021年9月8日)
・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」No.68(2021年10月11日)
・「アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求」No.72(2021年10月21日)
(研究員 青木 健太)
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