中東かわら版

№72 アフガニスタン:モスクワ会合参加諸国がターリバーンに「包摂的」政権成立を要求

 2021年10月20日、ロシアが「アフガニスタンに関するモスクワ会合」をホストした。参加諸国が発出した共同声明によると、今次会合に参加したのはロシア、中国、イラン、インド、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、および、アフガニスタン暫定政府(原文ママ)だった。米国は、「ロジ的に難しい」との理由で参加しなかった。

 同声明によれば、参加諸国は、ターリバーンが事実上の権力を担っている「新しい現実」を認識する必要性を確認した。但し、この姿勢は、アフガニスタンにおける正式な新政府に対する国際的な承認を意味しない、との留保が付された。また同会合において、ターリバーンによる「民族」と「政治」の面での真に包摂的な政府樹立、少数民族・女性・子どもを含む全ての国民の人権尊重、テロ対策、および、経済・人道危機等について協議された、と同声明は記述している。そして、冬期を目前に厳しさを増す人道状況に鑑みて、参加諸国は、「国連主催による国際的なドナー会議の開催」を提唱し、アフガニスタンの財政破綻を防ぐことで一致した。

 ロシアのラブロフ外相は会合で、ロシアは2018年11月からこうした信頼醸成のための会合をホストしてきた、アシュラフ・ガニー前大統領は国民和解への取り組みに失敗した、いまやターリバーンには新しい行政機構としての重い責任が任せられており、公共ガバナンスの円滑な運用を担保しながら軍事・政治状況を安定させようとするターリバーンの努力をロシアは多とする、と演説した。

 ターリバーン代表団のハナフィー副首相代行は、アフガニスタンには平和と安定が戻った、外国に対してアフガニスタンが如何なる脅威も与えないことを確約する、旧政権の腐敗は末端まで蔓延っていたが新政府はこれを一掃し国民に奉仕するものである、ターリバーンは諸外国との良好な関係を希望しており米国に対しては資産凍結解除を求める、と発言した。

 また、モスクワ会合のサイドラインでは、ターリバーン代表団が、インド、および、イランの代表団と個別に会談した。

評価

 本年8月15日にターリバーンがほぼ全土を掌握して以降、国際的に承認されたイスラーム共和国政府の元首が国外逃亡を図ったことで、アフガニスタンでは事実上の無政府状態が続いている。諸外国・国際機関はターリバーンが支配するアフガニスタンへの資産を凍結しているため、同国の財政は逼迫し、経済・人道状況は急速に悪化しているのが現状だ。こうした中、地域大国であるロシアが、ターリバーンへの政府承認を意味しないと前置きしつつも、「新しい現実」に対処すべくイニシアチブを取ったことは現下の諸課題の解決に向けて前向きなものだといえよう。

 他方で、国際社会がターリバーンを政権として承認する動きは現時点で見られておらず、国際社会側がターリバーン側に政府承認への「実質的な条件」を付す一方で人道援助は行う構図が出現している。特に、ロシアをはじめとする諸外国が「実質的な条件」として挙げているのが、ターリバーンが多民族を包摂する政権を成立させ、旧政権の政治家を含めた諸政治勢力を参加させること、の2点である。同時に、少数民族(注:シーア派のハザーラ人への迫害が報じられており、特にこれを念頭に置いているものと思われる)、女性、および、子どもの権利保障も国際社会は重視している。

 しかし、現在、ターリバーンは完全な軍事的勝利を手中に収めており、アフガニスタン国内にはこれに代わる勢力がいない。ターリバーン優位の現状を踏まえると、ターリバーンが旧政権への権力分与において譲歩する理由はなく、したがって、国際社会とターリバーンの主張が平行線を辿る可能性が高い。当面、ターリバーン暫定政権の承認を巡ってはステータスクオ(現状維持)が続くと考えられ、近い将来での解決は見通せない。

 今後、イランがアフガニスタン隣接6カ国の外相会合の開催を計画している他、中国がターリバーンとの外相会談を予定しており、インドも近隣諸国の国家安全保障評議会書記級の会合を11月上旬にホストすることを予定している。この中でインドは、パキスタンの影響力拡大を阻止すべく、過去20年間にイスラーム共和国側に30億ドル(約3300億円)を超える民生支援を投じてきており、カーブル陥落を受けて「敗者」とも呼べる立場に転じている。印パ対立がアフガニスタンを舞台に展開してきた経緯を踏まえると、インドがターリバーンとどのような関係を取り結ぼうとするのか、またターリバーンに対抗する(タジク人のアフマド・マスードが率いる)パンジシール国民抵抗戦線を背後から支援するのかは、今後の趨勢を左右する重要な要素になるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑」No.68(2021年10月11日)

(研究員 青木 健太)

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