中東かわら版

№67 チュニジア:新首相の任命

 2021年9月29日、サイード大統領は7月にマシーシー首相を解任して以降、空白であった首相ポストにナジュラー・ブーデン・ラマダーン氏を任命した。チュニジア史上初の女性首相となった同氏は1958年にカイラワーンで生まれ、パリ国立高等鉱業学校で博士号(地質学)を取得し、チュニス国立工科大学の教授である。また2011年に教育省局長級ポストに就任し、2016年より高等教育・科学研究省で高等教育改革プロジェクトの責任者も務める。近日中に、ナジュラー・ブーデン氏を首班とする内閣が発足する見通しである。

 その一方、チュニジア情勢は緊迫した状況が続いている。サイード大統領は7月25日に緊急事態時の大統領の特別措置を適用して執行権を掌握し、首相の解任や議会の一時停止を行った。9月22日には2014年憲法の一部条項の停止を発表し、議会停止措置の継続、大統領令を介した立法権の行使、そして法案の合憲性を調査する機関「暫定憲法調査機構(※憲法裁判所は未設置)」の廃止などを決定し、全権を握った。こうした大統領の動きに対し、議会第1党のナフダ党のほか、野党やチュニジア労働者総同盟(UGTT)も反発しており、またチュニスで反大統領デモが発生している。

評価

 今般、サイード大統領が政治経験のないナジュラー・ブーデン氏を任命した背景には、政治面での大統領・首相間の主導権争いを避ける思惑があると考えられる。革命後のチュニジア政治では両者間の対立が政治的混乱をもたらす要因となっている。現在、同大統領は9月22日の憲法停止発表により全権を掌握しているものの、大統領権限の拡大を目的とした憲法改正の実現に向けて新政府と協力する必要がある。そのため、政治色が薄く、他政治勢力と連携しないと思われる同氏を抜擢したのだろう。女性の登用に関しては、サイード大統領は大統領府官房長官にも同国初の女性を起用するなど、性別に問わず適材適所に人員配置を行っている。

 今後、ナジュラー・ブーデン新内閣は政権運営の正統性の問題に直面するだろう。2014年憲法第89条に従うと、新内閣の成立は議会で過半数以上の承認を得る必要があるが、議会が停止する現状下、サイード大統領は自らの裁量権で同内閣の承認に踏み切る可能性がある。新内閣が議会採決を経ずに誕生した場合、大統領の強引な手法は与野党や国民の反大統領感情を刺激し、反大統領デモが活発化する恐れもある。そのため、サイード大統領及び新内閣が政治基盤を安定化させるには、大統領支持者らの期待に沿う政策を実行し彼らの支持を維持できるかが重要となるだろう。

(研究員 高橋 雅英)

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