中東かわら版

№68 アフガニスタン:米国・ターリバーン間協議に見る双方の思惑

 2021年10月9~10日、ターリバーンが実権を掌握(8月15日)して以降初めてとなる、米国・ターリバーン間直接協議がカタルで行われた。ターリバーン側代表団には、モッタキー外相代行(代表)、ハイルフワー情報文化相代行、ワシーク情報局長官代行、ヌールジャラール内務副大臣代行らが参加した。米国側からはウェスト和解担当特別副代表が代表として一行を率い、コーエンCIA副長官、米国国際開発庁(USAID)高官らが同行した。昨年2月のドーハ合意締結の立役者だったハリールザード特使は、今次協議に参加しなかった。

 米国務省は10日、今次協議において、治安・テロ対策、米国・同盟国民の安全な移動、女性の社会参画を含めた人権問題、及び人道支援への対応について協議したとの声明を発出した。また、米国はターリバーン側に対して、「言葉ではなく行動によって判断する」と伝えた旨、同省は発表した。現時点までに米政府からこれ以上の詳細は明らかにされていないが、9日付『CNN』は、米国・同盟国民の国外退避を米国代表団は優先課題として挙げ、深刻な人道危機への対処についてターリバーンに協力を要請したと報じた。匿名の米政府高官は、ターリバーン暫定政権の政府承認については、今次協議の議題ではなかったと同記事で語った。

 その一方、ターリバーン側は、若干これとは異なる協議内容を明らかにしている。11日付声明は、双方は詳細に政治的問題について議論し、とりわけドーハ合意の完全履行を主要議題として取り扱い、人道支援と政治的問題とを結びつけるべきでない旨が協議されたとしている。また、同声明によると、米国代表団がアフガニスタン人民に人道支援を供与すると発言したことに対し、アフガニスタン・イスラーム首長国(注:ターリバーンを指す)はこれを歓迎し、慈善事業団体と協力するとの立場を示した。また、同声明は、「外交関係」の修復に向けた努力が講じられるべきとの詳細な議論がなされたと記した。

 また、ムジャーヒド情報文化副大臣は、今次協議では①ドーハ合意順守、②資産凍結解除、③ターリバーンの政府承認を巡る話題が協議されたと11日付『トロ・ニュース』のインタビューで語っており、ターリバーン側は政権の正統性の獲得を重視している模様である。

 この他、カーブル陥落後、欧米諸国の外交使節がターリバーンと接触した事例には、10月5日のガス英国首相特使のバラーダル副首相代行との会談がある。今後、ターリバーン側代表団は、EU代表団との協議も予定している。

評価

 米国がターリバーンとの関与を継続している様子から、ターリバーンに対し正統性を与えることに慎重な配慮を施しつつも、米国民の国外退避や人道支援などの喫緊の課題に対してはコミュニケーションを図り続けようとする意志が窺える。特に、現在、国際通貨基金や世界銀行がアフガニスタンに対する資産を凍結しており、アフガニスタン国内では現金や食料の不足が深刻化している。米国は、アフガニスタン人民への人道的な対応を、政治的問題とは別のチャンネルで続ける必要性に迫られている。各種声明において政府承認や資産凍結解除について言及していない点からも、米国としては相反する問題の狭間で非常に難しい対応を迫られていることがわかる。なお、米国として、ターリバーン暫定内閣メンバーの多くが国連安保理制裁リストに載りFBIの指名手配犯もその中に含まれる状況下、ターリバーンを政府承認することは容易ではない(詳細は『中東分析レポート』R21-06【会員限定】参照)。

 その一方で、ターリバーンは米国とは異なり、米国代表団と会談したことを自らの政治的ステイタスを向上させる宣伝材料に利用している節が垣間見える。現状において、ターリバーンはほぼ全土を制圧しているとはいえ、前政権からの権力移行プロセスを経ておらず、如何なる国からも政府承認を受けていない。このため、英国首相特使(5日)、及び、米国代表団(9~10日)と協議を重ねることで、ターリバーンとしてはアフガニスタンの正統な統治主体であるとの既成事実を積み上げようとしていると考えられる。また、アフガニスタンを国際テロ組織に使用させないとの合意については双方が言及していることから、米国・ターリバーン双方の利害が一致している事項とも見做せる。

 事実上の無政府状態が続く状況下、日本もターリバーンとの対外交渉で難しい対応に直面することが見込まれる。欧米各国と同様に、日本にとっても「包摂的」な陣容でないターリバーン暫定政権を政府承認するハードルは高い。その一方で、自国民や協力者の国外退避問題や人道支援などに取り組む必要性は高いことから、ターリバーンとの関与を止めることは難しい。日本を含む国際社会側では、こうしたジレンマを抱えた状況が続くことになるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:アフガニスタン政府が崩壊」No.50(2021年8月16日)

・「アフガニスタン:アフガニスタンからの米軍撤退が完了」No.56(2021年8月31日)

・「アフガニスタン:ターリバーンが暫定内閣を発表」No.58(2021年9月8日)

 

<中東分析レポート>【会員限定】

・「アフガニスタン国民統合に向けた課題と今後の展望 ――「部族」に着目したターリバーン暫定内閣の分析――」R21-06

(研究員 青木 健太)

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