中東かわら版

№62 レバノン:ナジーブ・ミーカーティー内閣の成立

 2021年9月10日、組閣を委任されていたナジーブ・ミーカーティー元首相とアウン大統領は新内閣(24名)で合意し、閣僚リストが発表された。2020年8月にディヤーブ首相がベイルート港爆発事故の責任を取り辞任を表明した後、ムスタファー・アディーブ、サアド・ハリーリーが組閣を試みたものの失敗し、今年7月26日、新たにミーカーティー元首相が次期首相に指名されていた。1年1カ月ぶりに内閣が形成されたことになる。今後、議会での内閣信任投票を経てミーカーティー内閣は正式に成立する。

大臣名

氏名

主な経歴、宗派

首相

ナジーブ・ミーカーティー

元首相(2015, 2011-14);現国会議員;実業家;スンナ派

副首相

サアーダ・シャーミー

IMF(1993-2013);ギリシャ正教

内相

バッサーム・マウラウィー

判事;スンナ派

保健相

フィラース・アビヤド

ラフィーク・ハリーリー病院;スンナ派

環境相

ナーシル・ヤーシーン

アメリカン大学教授;スンナ派

経済相

アミーン・サラーム

エコノミスト;スンナ派

財務相

ユースフ・ハリール

レバノン銀行幹部;シーア派

公共事業・運輸相

アリー・ハミーヤ

サイバー犯罪専門家;シーア派

農業相

アッバース・アル=ハーッジ・ハサン

ジャーナリスト;シーア派

文化相

ムハンマド・ムルタダー

判事;シーア派

労働相

ムスタファー・バイラム

会計専門家;シーア派

教育・高等教育相

アッバース・ハラビー

セント・ジョセフ大学教授;ドルーズ派

避難民担当相

イサーム・シャラフッディーン

化粧品会社創設;ドルーズ派

外相

アブドッラー・アブー・ハビーブ

駐米大使(1983-90);世銀中東北アフリカ部門(1992-2001);マロン派

通信相

ジョニー・コルム

ペイント会社経営;マロン派

観光相

ワリード・ナッサール

エンジニアリング会社経営;マロン派

情報相

ジョルジュ・カルダーヒー

TV番組司会者;マロン派

法相

ヘンリー・フーリー

前国家評議会長官;マロン派

エネルギー相

ワリード・ファイヤード

国際コンサル会社幹部;ギリシャ正教

国防相

モーリス・スリム

准将(退役);ギリシャ正教

社会問題相

ヘクトール・ハッジャール

医師;社会奉仕活動に従事;ローマ・カトリック

青年・スポーツ相

ジョルジュ・カッラース

元レバノン大学情報学部長;ローマ・カトリック

行政改革担当国務相

ナジュラ・リヤーシー

元国連代表部大使(2007-17);ローマ・カトリック;女性

産業相

ジョルジュ・ブージキヤーン

医療機器会社経営;アルメニア正教

(出所)各紙をもとに筆者作成。

 

評価

 レバノンでは、サアド・ハリーリー内閣期(2016年1月~2020年1月)の内政混乱を経て、非党派的な内閣を形成することで諸党派の対立や政治過程の行き詰まりを解消する試みが行われている。さらに、ベイルート港爆発事故後は、フランスがレバノンの政治改革を促すため非党派的内閣の形成を強く主張したため、今回も新内閣には政党出身者や閣僚経験者がほとんどおらず、特定分野の専門家が多い。

 しかし実際は、これらの非党派的閣僚たちは各宗派勢力が推薦した人物である。スンナ派、シーア派、キリスト教の主要政治勢力が自らの利権を守るため、自派が影響力を行使できる人物を閣僚に送り込み、閣議で拒否権を行使できるようにするのである。首相ポストは伝統的にスンナ派から輩出され、ミーカーティーはサアド・ハリーリー元首相などの支持を得て組閣交渉を開始した。各派は特に経済系ポストの獲得を巡り対立し、組閣が遅れる原因となった。経済相はミーカーティー首相が推薦したアミーン・サラーム、財務相はベッリ国会議長(アマル運動)が推薦したユースフ・ハリール、エネルギー相はアウン大統領(自由愛国運動)が推薦するワリード・ファイヤードが就任した。したがって、ミーカーティー内閣も旧態依然の宗派主義内閣といえる。

 ミーカーティー内閣の課題は山積している。最優先課題は経済危機への対処である。2019年10月からレバノン・ポンドの価値は90%下落し、国家財政が危機的状態に陥り、燃料不足、電力不足、物資不足が深刻化した。新型コロナウイルス対策にも影響は及び、全国の薬局で医薬品が不足したり病院の医療機器が稼働できなくなる事態が発生した。人口の半数以上が貧困層ともいわれている。こうした未曽有の経済危機に対処するため、ミーカーティー内閣は、レバノン中央銀行の会計検査やサラーマ総裁の汚職疑惑の解明、IMFとの融資交渉の開始に取り組まなければならない。しかし、IMFと融資合意できたとしても、国際社会からの援助金が以前と同じように宗派のボスによって分配される形式が続けば、レバノン政治経済の構造的問題は残りつづけるだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

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