中東かわら版

№61 モロッコ:ムハンマド6世国王が新首相を任命

 2021年9月8日実施の下院選挙で独立国民連合(RNI)が議会第1党(102/全395議席)となったことを受け、ムハンマド6世国王は10日、RNIのアジーズ・アハンヌーシュ党首を新首相に任命した。アハンヌーシュ首相は各党との連立交渉を開始しており、近日中にRNI主導の新政権が発足する見通しである。

 RNIはこれまでのウスマーニー内閣でイスラーム主義政党・公正開発党(PJD)や社会主義政党・人民勢力社会主義同盟(USFP)などと連立政権を形成していた。しかし、PJDの議席数は125議席から13議席まで激減したことを受け、アハンヌーシュ首相は議会での過半数に向けてPJDに代わる新たな連立パートナーを見つける必要がある。

 

評価

 アハンヌーシュ首相は1961年に中部の町ターフラーウト(Tafraout)で生まれ、カナダの大学で経営学修士を取得した後、彼の父が創設した巨大企業グループ「Akwa Group」の会長を引き継ぎ、モロッコを代表する富豪である。また政治面では、農業・海洋漁業・地方開発・水・森林相(2007~)や経済・財務相代行(2013)を務め、2016年10月にRNI党首に就任した。そして、同首相は1990年代にハサン2世前国王に経済分野での助言を行うシンクタンク「G14」のメンバーでもあった経緯から、ムハンマド6世国王とも近い関係にある。

 今回、RNIからの首相任命はモロッコ政治において注目すべき動きである。RNIは1978年にハサン2世国王の義弟、アフマド・ウスマーン首相が設立した王党派政党である。王宮府の意向を受ける王党派はこれまで議会第1党として政権運営を行ったことがなく、連立政権で政党間の調整役を担ってきた。実際、1990年代以降の首班は社会主義政党USFP、テクノクラート、保守政党・イスティクラール党(PI)、イスラーム主義政党PJDの出身者であった。そのため、民意によるRNI政権の誕生は、COVID-19対策や社会保障改革、経済再建策を重視する王宮府にとって政策実行面で非常に好都合であると言える。

 今後の組閣動向について、RNIは王党派以外の政治勢力とも協力する可能性が考えられる。他王党派の議席数は真正近代党(PAM)が87議席、人民運動(MP)が28議席、憲法連合(UC)が18議席となり、RNIを含む王党派4党は多数派を形成できる。一方、国民からの広範な支持を得るため、RNIは保守政党PIや社会主義政党USFPも連立政権に取り込んでいくだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「下院選挙の暫定結果、イスラーム主義政党の大敗」No.59(2021年9月10日)

(研究員 高橋 雅英)

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