中東かわら版

№60 エジプト・トルコ:外交関係改善に向けた動き

 2021年9月7・8日、トルコとエジプトの外交関係改善を目指す第2回会合がアンカラで行われ、トルコからはセダト・オナル副外相が、エジプトからはハムディー・サナド・ローザ副外相が出席した。第1回会合は5月にカイロで行われ、同じく両国の副外相が参加した。トルコ・エジプト関係は2013年7月のエジプトでのクーデタ以来悪化しているが、2020年からトルコのリビアへの軍事介入が明らかになると、シーシー大統領がトルコの軍事的影響力を抑制するためリビアへの軍事介入を示唆するほどに関係はさらに悪化していた。

 今次会合で両国代表団はリビア、シリア、パレスチナ、東地中海地域における情勢を議論し、今後も会合を継続することで合意した。

 会合後、エジプトのシュクリー外相は、Bloombergとのインタビューにおいて、エジプトはトルコとの関係改善に努めており、トルコとの間にある諸問題が解決されれば両国関係は進展するだろうと述べた。マドブーリー首相も、Bloombergとのインタビューにおいて、諸問題が解決されれば今年中に外交関係が回復するだろうと述べており、両国の重要課題としてトルコのリビア介入を指摘した。外交関係回復の時期について具体的発言があったことは注目に値する。

【トルコ・エジプト間の関係改善に向けた動き】

2020年  9月

エルドアン大統領「エジプトとの対話に異論はない」

     9月

チャウシュオール外相「エジプトの駐トルコ臨時大使にエジプトと海上境界合意を結ぶ用意があると伝えた。既に両国の諜報要員が協議した」

2021年  3月3日

チャウシュオール外相「エジプトと海上境界で合意する用意がある」

    3月12日

エルドアン大統領「エジプトとの外交関係を回復したい」

チャウシュオール外相「エジプトと外交レベルの連絡が始まった」

    3月15日

シュクリー外相「トルコがエジプト内政に干渉しないことが関係改善の基盤になる」

    3月下旬

トルコ当局は、イスタンブルにあるムスリム同胞団系とされるテレビ局(シャルク、ワタン、ムカンメリーン)にエジプト批判を即時停止するよう命令。

    4月15日

チャウシュオール外相とシュクリー外相がラマダーンを祝い電話会談を実施

    5月4-5日

第1回エジプト・トルコ外交会合(副外相級、於カイロ)

    5月18日

シュクリー外相「トルコとの関係改善には、トルコが第三国の内政への介入や急進主義集団の支援を停止することが必要である」

    8月31日

トルコ当局は、ヒシャーム・バラカート検事総長爆殺事件(2015年カイロ)容疑者のムスリム同胞団員2名のトルコ出国を認めず。

    9月7-8日

第2回エジプト・トルコ外交会合(副外相級、於アンカラ)

(出所)各種報道をもとに筆者作成。

 

評価

 トルコとエジプトの関係改善の動きは、2020年8月にエジプト・ギリシャが海上境界で合意した頃から、主にトルコ側から見られた。諜報機関や外務省の事務方レベルから始まり、現在は副外相レベルで双方の国で会合が行われており、両国外相の発言やトルコ側のムスリム同胞団対策を見る限り、今後も関係改善に向けた外交レベル会合は継続されそうである。

 トルコがエジプトとの外交関係回復を目指す理由には、第一に、諸外国が進める東地中海の天然ガス開発においてトルコの利益を確保したいことがある。エジプトは2018年からギリシャやキプロスと共に東地中海の天然ガス開発で協力する地域枠組の構築を進め、2019年1月には上記3カ国に加えてイスラエル、イタリア、ヨルダン、パレスチナが「東地中海ガスフォーラム」(EMGF)の設立で合意した。トルコはこのような自国を排除したガス開発枠組みに反発してきた。さらに2020年8月にはエジプト・ギリシャが両国の排他的経済水域(EEZ)の部分的画定で合意したため、トルコは自国が主張するEEZが脅かされることになった。トルコも東地中海でガス開発を進めるためには、エジプトとの関係改善が必須となる。

 第二に、カタルとエジプト・サウジアラビア・UAE・バハレーンの外交関係復活も、トルコのエジプトへのアプローチに影響を与えたと考えられる。カタルはアル=ジャジーラ局のムスリム同胞団に好意的な報道を「改善」することなどを条件に上記アラブ4カ国と外交関係を回復し、エジプトとカタルは外相会合を実施するまでに関係が改善した。こうした域内諸国の関係の変化は、トルコがエジプトとの関係改善を進める誘因になっただろう。

 第三の要因として、トルコとエジプトは、リビア、シリア、イラク情勢に関してテロの脅威の低減や経済開発の観点から紛争解決に共通利益を見出している。最も利害が衝突する分野はリビア紛争だが、リビアで大統領・議会選挙が実施される12月までにトルコのリビア介入について何らかの決着が見られるかどうかが重要になるだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

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