中東かわら版

№58 アフガニスタン:ターリバーンが暫定内閣を発表

 2021年9月7日、ターリバーンのムジャーヒド報道官は記者会見を開き、暫定内閣を発表した。同記者会見で配布された、アフガニスタン・イスラーム首長国(注:ターリバーンを指す)名義の声明の概要、及び、閣僚リストは以下のとおりである。

 

  • アッラーのご加護により、我々の国は占領から解放された。戦争の要因は取り除かれ、同胞は良好な治安を享受している。今こそ、強力なイスラーム的統治の実現が必要である。何故なら、我々の国では混乱を回避するため、法的権利、経済、社会等、様々な分野で福祉サービスの提供や活動を必要としているからである。イスラーム首長国は、政府として対処が必要な諸分野に取り組むため、暫定内閣を任命し、ここに発表する。なお、残りの閣僚や各機関の任命については、検討の上で徐々に表明することとなる。

 

 

ポスト名

氏名

備考

1

首相代行

ムッラー・ムハンマド・ハサン・アーホンド

元副首相;創設メンバー

2

副首相代行

ムッラー・アブドゥルガニー・バラーダル

副指導者兼政治局長;創設メンバー

3

副首相代行

モウラヴィー・アブドゥルサラーム・ハナフィー

ウズベク人;元教育副大臣

4

国防相代行

モウラヴィー・ムハンマド・ヤクーブ

副指導者兼軍事委員長;ウマル師の息子

5

内相代行

ムッラー・シラージュッディン・ハッカーニー

副指導者;ハッカーニー・ネットワーク指導者

6

外相代行

モウラヴィー・アミールハーン・モッタキー

元情報文化相

7

財相代行

ムッラー・ヘダーヤトッラー・バドリー

 

8

教育相代行

モウラヴィー・ヌールッラー・ムニール

 

9

情報文化相代行

ムッラー・ハイルッラー・ハイルフワー

元内相

10

経済相代行

カーリー・ディン・ハニーフ

タジク人;元計画相;元高等教育相;2012年訪日経験あり

11

巡礼・寄進相代行

モウラヴィー・ヌールムハンマド・サーケブ

 

12

司法相代行

モウラヴィー・アブドゥルハキーム・シャライー

 

13

国境・部族相代行

ムッラー・ヌールッラー・ヌーリー

元バルフ州知事

14

地方復興開発相代行

ムッラー・ムハンマド・ユーノス・アーホンドザーダ

 

15

招待・教導・勧善懲悪相代行

ムハンマド・ハーレド

 

16

公共事業相代行

ムッラー・アブドゥルマナーン・ウマリー

ウマル師の義兄弟;元民間人被害防止委員長

17

鉱工業・石油相代行

ムッラー・ムハンマド・イーサー・アーホンド

 

18

水・電気相代行

ムッラー・アブドゥルラティーフ・マンスール

元農業相

19

航空・運輸相代行

ムッラー・ハミードッラー・アーホンドザーダ

 

20

高等教育相代行

モウラヴィー・アブドゥルバーキー・ハッカーニー

 

21

通信相代行

モウラヴィー・ナジーブッラー・ハッカーニー

 

22

難民相代行

ハリールルラフマーン・ハッカーニー

ハッカーニー・ネットワーク幹部;カーブル治安担当

23

情報局長官代行

ムッラー・アブドゥルハック・ワスィーク

元情報機関副長官

24

中央銀行総裁代行

ムハンマド・ハーレド・イドリース

 

25

官房長官代行

モウラヴィー・アフマドジャーン・アフマディー

 

26

国防副大臣

ムッラー・ムハンマド・ファーゼル・モズルーム

 

27

軍参謀総長

カーリー・ディン・ハニーフ・ファスィーフルディン

 

28

外務副大臣

シェール・ムハンマド・アッバース・スターネクザイ

前カタル政治事務所代表;元保健副大臣

29

内務副大臣

モウラヴィー・ヌールジャラール

 

30

情報文化副大臣

ザビーフッラー・ムジャーヒド

報道官

31

情報局副長官(筆頭)

ムッラー・タージ・ミール・ジャワード

 

32

情報局副長官(行政担当)

ムッラー・ラフマトッラー・ナジーブ

 

33

内務副大臣(麻薬対策担当)

ムッラー・アブドゥルハック・アーホンド

 

(出所)公開情報をもとに筆者作成。

 

 なお、同日、ハイバトッラー・アーホンドザーダ指導者は声明を発出し、国家の統治と国民生活はシャリーア(イスラーム法体系)によって統制されるとの方針を示した。なお、同指導者の敬称には「信徒たちの長」が用いられている。

評価

 今次リストは、あくまでも現下の諸問題に対処するための暫定的なものである点に留意が要る。政治体制の全体像、任期、正式な政権への権力移行プロセスなど、将来への政治的ロードマップは示されておらず、今後、状況に応じて閣僚が追加される可能性もあるだろう。

 それでも、アフガニスタン政府が事実上崩壊し権力の所在が曖昧な状況が続いていた中、ターリバーンが暫定内閣を公表したことで権力移行プロセスが一歩前進したと評価はできる。今回、ターリバーンは早期に組閣する必要に迫られる状況下、9月6日、パンジシール州(カーブルから北方に位置する渓谷)を陥落させたと主張(注:パンジシール国民抵抗戦線側は否定)し、取り敢えず暫定内閣を成立させる条件を整えることで、今般の発表に至ったものと考えられる。ターリバーンは8月15日に首都カーブルを攻略したが、アフマド・マスード(国民的英雄であるアフマド・シャー・マスード将軍の息子。タジク人)率いるパンジシール国民抵抗戦線を制圧できず、暫定内閣の公表を留めていた。

 これらを踏まえた上で、最も注目すべきは、これまで表立って活躍してこなかったムッラー・ムハンマド・ハサン・アーホンドが首相代行に任命されたことであろう。伝統的にジルガやシューラーなどでの合議制で物事を決めるアフガニスタン社会では、権力争いが発生した際に、敢えて当事者以外の力の弱い人物を神輿の上に担ぐことで当事者双方の顔を立てる紛争解決手法が取られてきた。1992年4月のムジャーヒディーン連立政権樹立時、ラッバーニー・イスラーム協会指導者とヘクマティヤール・イスラーム党指導者の衝突を避けるため、ムジャディディ民族解放戦線指導者が暫定首班として擁立され緊張緩和が図られたことはその一例だ。今回も、事前予測では、バラーダル副指導者兼政治局長、シラージュッディン・ハッカーニー副指導者、あるいは、ヤクーブ副指導者兼軍事委員長が有力視されていた。ターリバーン指導部内では、誰の顔を立てるか難しい選択を迫られる中で、如何なる人物の面子も潰さない形で利害調整が図られたと見るべきだ。パキスタンのハミード軍統合情報局長(ISI)のカーブル訪問を、これと関連づける向きもある。

 暫定内閣の陣容を分析すると、事前に謳っていた「包摂政府」とは程遠いものであることがわかる。調整評議会を率いたカルザイ元大統領、アブドッラー国家和解高等評議会議長、及び、ヘクマティヤール・イスラーム党指導者ら、有力政治家は今次の暫定内閣には入らなかった。女性閣僚の顔ぶれも見られない。民族別に見ると、最大民族パシュトゥーン人が圧倒的多数であり、タジク人とウズベク人には僅かに閣僚ポストが配分されているのみである。少数民族ハザーラ人などは入閣していないことから、多民族国家のアフガニスタンにおいて将来不満の声が上がることは必至だといえる。

 こうした中で、新たに招待・教導・勧善懲悪省が設立されたことは特筆すべきだ。1996~2001年のターリバーン「政権」時代には、コーランや預言者の言行録ハディースを典拠に刑の量を定めた身体刑(ハッド刑)の適用を勧善懲悪省が監視した。このことは、当時、欧米各国の反発を招き、ターリバーン「政権」が国際的に孤立化する一因となった。今後、ターリバーンがどのように社会秩序と治安の回復を国民に示し、また世界銀行やIMFが資金拠出を凍結し財政が逼迫する中で、如何に国民に生活改善を実感させられるかが将来の安定化を見る上で重要だろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:アフガニスタン政府が崩壊」No.50(2021年8月16日)

・「アフガニスタン:アフガニスタンからの米軍撤退が完了」No.56(2021年8月31日)

(研究員 青木 健太)

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