中東かわら版

№56 アフガニスタン:アフガニスタンからの米軍撤退が完了

 2021年8月30日深夜、アフガニスタンからの米軍撤退が完了した。これによって、2001年10月7日の米軍による軍事介入から約20年間続いたアフガニスタン戦争は、大きな節目を迎えた。米中央軍のマッケンジー司令官は、「最後のC-17輸送機が、米東部時間8月30日午後3時29分(アフガニスタン時間30日午後23時59分)にハーミド・カルザイ国際空港を出発した」と発表した。バイデン大統領は30日、今回の人員退避ミッションで12万名の米国人、米国に協力したアフガニスタン人とその家族、同盟国の人員を退避させたと述べた。但し、撤退期限が迫る中で、米国として退避させたかったが退避できなかった人員が数多く国内に残された。

 一方で、ターリバーンのムジャーヒド報道官は、「(8月30日)夜12時に、最後の米兵がカーブル空港を発った。これにより、我が国は完全に自由と独立を達成した」とツイートした。現地報道によれば、首都カーブルではターリバーン構成員らによる祝砲が鳴り響いた。

評価

 2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を受けて、同月18日、米国連議会両院は、9.11の責任者並びに匿った者に対する必要且つ適切な武力の行使を承認する権限を大統領が有するとの合同決議を採択した。その2日後の20日、ジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が、ターリバーンに対して、彼らが支配する土地に潜むアル=カーイダ(AQ)指導者を米国に引き渡さなければ軍事行動も辞さないとの警告を突きつけた。ターリバーンがこれを拒否したため、同年10月7日、米国がターリバーン政権に対する空爆を開始し、以後20年に及ぶ戦争が続いた。今回の撤退により、米国が20年前に権力の座から追放したターリバーンの勝利という形で大きな区切りを迎えた。

 9月1日以降、駐留外国軍がいない状況が生まれるため、ターリバーンは独立を達成した機運を逃さず近い内に移行政権の様態を公表する可能性が高まった。現在まで、国際的に認められたアフガニスタン政府の国家元首であるガニー大統領が降伏しないまま国外逃亡を図り、権力の所在が曖昧な状況が続いている。ターリバーンとしてもほぼ全土を制圧してはいるが、確固たる政治的ステイタスを確立したわけではない。このため、ターリバーンは、指導者、政治体制、司法枠組み、停戦に向けた姿勢、治安部門の統廃合・改革、人権保障を含めた統治方針などを徐々に明らかにすると考えられる。現時点で、政治体制の内容は明らかでないが、12名から成る指導者評議会が最高意思決定機関として君臨(アーホンドザーダ指導者が「信徒たちの長」として指導することが見込まれる)し、既存の政府機構を活用する形で閣僚を任命する可能性があると報じられている。どこまでアフガニスタン諸政治勢力が参加する包摂的な形になるのか、AQを含めた国際テロ組織との関係断絶、女性の権利保障を含めた人権尊重、国際社会との友好維持などが、今後の各国の政府承認を含めた対応に影響を与えるだろう。

 また、米国による「テロとの戦い」が終了したわけではない点には留意が要る。米軍は8月27日に東部ナンガルハール州で「イスラーム国ホラーサーン州(ISKP)」に攻撃を加えた他、29日にもカーブル市内で自爆攻撃を企図していたとしてISKPを標的に無人機攻撃をした(注:標的を誤り民間人10名が死亡した)。いずれの事案でも、米中央軍は「水平線の向こうから(over the horizon)」作戦を実行したと表明しており、アフガニスタン国外から遠隔操作で軍事行動を取ったことがわかる。アフガニスタンが再びテロの策源地になる懸念は拭えず、同国内に米軍のプレゼンスはなくなったことから、米国は将来にわたって遠隔テロ監視を強いられる。その過程では現地のパートナーがいなければ目標実現は困難ともいえ、将来、状況次第では米軍とターリバーンが協力する局面も現れる可能性がある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:アフガニスタン政府が崩壊」No.50(2021年8月16日)

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP