中東かわら版

№55 イラン:ライーシー政権が組閣を経て本格的に始動

 2021年8月25日、ライーシー大統領が11日に提出した閣僚リスト(19名)の信任投票が議会で行われ、ホセイン・バーグゴリー教育相を除く18名が信任された。これにより、8月5日に就任したライーシー政権が本格的に始動することとなった。国際協調路線を取り2期8年を務めたロウハーニー政権(2013-2021)下のイランでは、トランプ前米政権による厳しい経済制裁を背景に、銀行・原油取引制限を受けて財政が逼迫した。ライーシー政権下では、経済状況の改善、汚職撲滅、及び、均衡の取れた外交政策の行方が注目される。

 ライーシー政権の閣僚リストは以下のとおりである。

 

ポスト名

氏名

信任/不信任

備考

通信・IT相

イーサー・ザーレプール

信任

元文化・イスラーム指導省IT・デジタル開発責任者

情報相

セイエド・イスマーイール・ハティーブ

信任

イスラーム法学者;革命防衛隊、ハーメネイー最高指導者事務所、司法府の情報部責任者を歴任

経済・財務相

エフサーン・ハーンドージー

信任

国会議員;国会経済副委員長;元アッラーメ・タバータバーイー大学イスラーム経済学部長

教育相

ホセイン・バーグゴリー

不信任

元ラザヴィー文化財団幹部

保健・治療・医療教育相

バフラーム・エイノッラーヒー

信任

元保健・治療・医療教育省教育担当副大臣

協同・労働・社会福祉相

ホジャトッラー・アブドゥルマリキー

信任

イマーム・ホメイニー救済基金評議員;元イラン・イスラーム共和国放送幹部

農業・ジハード相

セイエド・ジャヴァード・サーダティーネジャード

信任

国会議員;国会農業・水・天然資源委員長

外相

ホセイン・アミール・アブドゥラヒヤーン

信任

国会議長特別補佐官(2016-);元外務事務次官(アラブ諸国・アフリカ担当、2011-2016);駐バハレーン大使(2007-2010)

司法相

アミーン・ホセイン・ラヒーミー

信任

司法府人材管理・文化担当次長;元国会議員

国防軍需相

ムハンマド・レザー・アーシュティヤーニー

信任

国防軍需省副参謀長

道路・都市開発相

ロスタム・ガーセミー

信任

2021年大統領選挙出馬;元石油相(2011-2013):革命防衛隊出身

工業・鉱業・商業相

セイエド・レザー・ファーテミー・アミーン

信任

元工業・鉱業・商業省幹部

科学・研究・技術相

ムハンマド・アリー・ゾルフィーゴル

信任

元ブーアリー・スィーナー大学長;元エリート財団幹部

文化・イスラーム指導相

ムハンマド・マフディー・イスマーイーリー

信任

元戦略問題研究所副所長;元エスファハーン州副知事

内相

アフマド・ヴァヒーディー

信任

元革命防衛隊ゴドス部隊司令官;元国防軍需相

文化遺産・観光・手工芸相

セイエド・エザトッラー・ザルガーミー

信任

2021年大統領選挙出馬;元イラン・イスラーム共和国放送代表(2004-2014);革命防衛隊出身

石油相

ジャヴァード・オウジー

信任

元石油副大臣;元国営イラン・ガス会社総裁

エネルギー相

アリー・アクバル・メフラービヤーン

信任

元大統領特別補佐官;元工業・鉱業相

スポーツ・青年相

セイエド・ハミード・サッジャーディー・ハザーウェ

信任

元スポーツ・青年省幹部

(出所)2021年8月11日付大統領府HPを基に筆者作成。記載順も右に基づく。

 

 なお、ライーシー大統領は、これと別にムハンマド・モフベル(イマームの命令執行本部長)を第一副大統領に、モフセン・レザーイー(2021年大統領選挙得票2位;公益判別評議会書記;革命防衛隊出身)を経済担当副大統領に各々任命した。

評価

 今次の組閣では、革命防衛隊出身者、及びイラン体制下での特権複合企業のエリート層などの保守強硬派の人物の登用が目立つ。少なくとも、革命防衛隊出身の閣僚が4名(ハティーブ情報相、ガーセミー道路・都市開発相、ヴァヒーディー内相、及び、ザルガーミー文化遺産・観光・手工芸相)いる。加えて、アブドゥラヒヤーン外相は革命防衛隊ゴドス部隊と密接な関係にあるといわれており、新たに任命された革命防衛隊出身のレザーイー副大統領も含めれば、政権中枢における革命防衛隊と密接な関係を有する人物の数は6名以上となり、その影響力拡大が想定される。

 また、イランでは1979年の革命後に資本の国有化が進んだことで、最高指導者や革命防衛隊の支配下にある特権複合企業が巨大な利権に与っているが、そうしたエリート層が名を連ねている点も特徴的だ。国営イラン・ガス会社総裁であったオウジー石油相や、イマーム・ホメイニー救済基金評議員のアブドゥルマリキー協同・労働・社会福祉相など、既得権益を有する財団・基金に属するエリート層に帰属する人物が多くみられる。さらに、新たに任命されたイマームの命令執行本部長であったモフベル第一副大統領も、最高指導者の意を忠実に実行に移す懐刀と位置付けられる。

 これらを総合的に踏まえれば、ライーシー政権は、前政権とは大きく異なる保守強硬派の一枚岩を形成したといえる。現状、三権の長が保守強硬派で占められ、大多数の国会議員も保守強硬派である。今後、各派の調整、法案の通過などで支障をきたす可能性は限りなく低い。また、ライーシー政権下では、JCPOA再建に向けたウィーン協議の道を閉ざしはしないものの、平行して近隣外交を推し進め、地域諸国との経済関係強化と自国の生産強化を通じた財政改革を目指すことになるだろう。この方向性は、対外交渉窓口である外相ポストが、欧米との対話を重視したザリーフ前外相から、革命防衛隊に近いとされるアブドゥラヒヤーン外相に引き継がれたことからも裏付けられる。国際協調路線を取る穏健派は、権力中枢から遠ざけられた。今後の展開次第では、最高指導者の判断により、ウィーン協議の対外交渉窓口が、外務省から国家安全保障最高評議会(国家安全保障に関わる意思決定機関で、大統領が書記を務める)にシフトされる可能性もあるだろう。その意味では、政権移行に伴う集団指導体制の変容に注目が必要である。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:ライーシー大統領の就任演説に見る政策方針」No.47(2021年8月12日)

(研究員 青木 健太)

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