中東かわら版

№54 チュニジア:議会停止の延長

 2021年8月23日、大統領府は、サイード大統領が議会停止と全議員の免責特権剥奪の措置延長に係る大統領令に署名したと発表した。これらの措置は、7月25日に同大統領が憲法第80条(緊急事態時の大統領の特別措置)を適用して執行権を握った後に発表したものであり、措置の期間は当初、8月24日(30日間)までの予定であった。今後、大統領の新たな通知があるまで、議会停止が続く見通しである。

 こうした状況下、議会第1党のナフダ党内でも大きな動きが生じている。8月23日、ガンヌーシー党首は現執行部メンバー全員の解任を決定した。また、同党の政治危機管理委員会が現在の例外的な状況を脱するための任務を担うと発表した。

 

評価

 今般のサイード大統領による延長措置は、法的根拠を欠いた一方的な決定であると言える。憲法第80条の特別措置については、憲法裁判所が継続可否を判断する規定であるが、同裁判所は2014年憲法の制定以降、未設置のままである。そのため、大統領は自らの裁量権で期間延長を判断し、議会承認を得ずに政策を実施できる大統領令を活用するに至った。

 サイード大統領が議会停止を延長した背景には、大統領を中心とした政策決定体制を構築する狙いがあると考えられる。同大統領は7月25日の執行権掌握後、大統領令を通じて、閣僚や県知事、大使、内務省幹部の多くを更迭し、自らの政策方針に沿う人物を後任に任命した。さらに、全議員の免責特権を剥奪したことで、与野党を含めて各党議員に対する司法調査を進め、大統領の罷免に向けた議員の動きを封じている。サイード大統領が首相の任命を遅らせている理由も、大統領への権限集中を確実にするためであるだろう。

 この先、大統領の延長措置に対するナフダ党の反応が注視される。ガンヌーシー党首は若手党員グループが要求していた党執行部の再編に応じることで内部対立を緩和し、議会再開に向けて党内結束を図ろうとしている。その一方、大統領決定の正当性をチェックする議会や憲法裁判所が機能していない現状下、ナフダ党が利用できる異議申立ての手段は街頭デモしか残っていないため、議会停止が長期化した場合、同党がデモ実施に踏み切ると予想される。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「大統領が首相解任と議会の一時停止を発表」No.42(2021年7月26日)

・「ナフダ党に対する司法調査の開始」No.44(2021年7月29日)

・「チュニジア:ナフダ党内の対立激化」No.45(2021年8月5日)

(研究員 高橋 雅英)

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